ジャングル1.0

不定期連載 山道をゆく 第188話
06/07/30
会津朝日岳(日本二百名山、庵線千名山372)
【ジャングル1.0】

7/30(日)
庵庵−第三京浜−環状8号−用賀IC−3号−C1−5号−S1
−浦和料金所−羽生PA−上河内SA−矢板IC−陸羽街道(R4)−JOMO
−会津東街道・湯の香ライン(R400)−R121−田島−R289−山口
−万丈橋−いわなの里…赤倉沢越…三吉ミチギ…人見ノ松
…叶ノ高手…熊ノ平…バイウチノ高手…会津朝日岳…いわなの里
−R289−山口−R401−内川橋−R352−たのせ−木賊温泉 岩風呂
−檜枝岐−R352−小白沢ヒュッテ

7/31(月)
小白沢ヒュッテ−R352−枝折峠−A Coopゆのたに店
−小出IC−大和PA−寄居PA−入間IC−R16−八王子バイパス
−庵庵

…:歩き、−:車

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5月末から6月頭にかけての香港出張に伴う休日出勤に対する振替休日の利用期限が刻一刻と迫っていた。天候の覚束ない梅雨の日々が続く中、週間予報を睨むと月末にも梅雨明けの予感は漂っていた。金曜日発でトリプルプレイを、とは皮算用が早過ぎて、未だ梅雨の明け切らぬ南アルプスに遭難は必至であろうと読んだ。九州地方は天候の回復も早そうで、UAのマイレージで久住リベンジも思案にあったが、定額料金席は未だ余裕があったものの、残念ながらマイレージ枠は塞がってしまっていた。土曜日は様子を見てから新潟の秘境にまた暑気払いに赴くか。思えばあれは丁度2年前のことだった。長野県在住の友人と4時半鷹ノ巣集合にしながら、業務にはまって会社を出たのが午前1時過ぎ、タクシーで帰宅後荷物一絡げで出発し、6時半に鷹ノ巣到着、氏の登山中に追い付いたと言う今では想像に難いタフさを発揮していた。そしてその晩の飲み代は宿代を遥かに超越してしまい、ヒュッテ初見舞ながらも伝説を作り上げてしまった次第である。それに比べれば今回の余裕は遥かに大きい。天気予報を見比べればほぼ周囲の山々の天候は安泰の模様だ。土曜の温存があるから多少登山口までの道程が遠かろうがやってしまえ。審議の結果、初日は会津朝日岳を狙うことにした。守門岳と浅草岳に未練も残るが、この2山はその2山の麓に宿を執る等してチャレンジすべしと神に誓った。何となく、久々に三京から旅を始めたくもなっていた。
土曜日はトトロのビデオを見てほのぼのとし、夕方には行き着けの飲み屋に寄った。明日は早いからと言いながらも2時間近く居座ってしまう。帰宅後3時間超程眠り、日付変更線の切り替わった直後に庵庵を出発した。その頃には未だ飲み屋に灯りが点っていた。三京ではスピードを出し過ぎた。首都高には若干の渋滞が観測されたが、神の思し召しと思い我慢した。急ぐ莫れ。S1に入って途端に交通量が減り、またスピードを出し過ぎてしまった。東北道に入っても然り。拙い。矢板ICで下車して反省しながらスピードを控えた。24時間営業のガソリンスタンドで給油し、いざ塩原方面を目指す。R400途中から「安全運転」のトラックが道を塞ぎ、何時しか後続の乗用車が10台を超えてしまっていた。R400は全面的に追い越し禁止になっているため、二進も三進も行かない。トラックの運ちゃんは後ろの様子に気づいているのだろうか。運ちゃんには運ちゃんの言い分があろう。然し、貴方が少々道を譲ってくれれば、地球温暖化は少し防げると思うのは私だけではないだろう。度田舎の闇夜に十数台の縦列が延々と続いた。月や近所の狸連合からすれば異様な光景と映ったことは想像に難くない。一応前には進んではいたのだが、、、R121に入っても追い越し禁止は続いたが、業を煮やした乗用車数台のドライバーは、切れて我々と前行くトラックを時速ぬわわkmくらいで追い抜いて行った。闇夜の神経戦だった。
田島まで来て漸くトラックと進路を異にすることができ、国道を飛ばす。只見地方は一面のガスに覆われてしまった。今日もダメかと思いながら、諦めて予定通り国道を進んだ。国道を逸れ、いわなの里に到達。登山口の看板を頼りに砂利道を進む。右手に駐車可能なスペースが見つかったので、車を停めて菓子パンを食い、登山を開始した。
何時しか明るくなった天。然し、いきなり泥濘の連続であり、スパッツを持参していなかったアントニオにとっては難儀なルートの始まりであった。側を流れる赤倉沢の水の音は正しく爆音であり、滝の様であった。そして泥濘も沼の様である。昨日までの雨量を鑑みると理解は出来る。ただ、特に疲弊し切った我が精神状態の回復を睨んで飛び立ったこのツアーだが、斯くも凄まじい爆音には圧倒されるしかなく、途中で遭難したり、天候激変で落雷に打たれたりするのではないかと被害妄想が脳裏を駆け巡ってしまった。精神回復の積もりが更にダメージを増幅させられるのか。約7時間のコースだが、今日は何時も以上に時間を食ってしまうのではないかと心配になった。まぁ良い。5時過ぎ出発だ。偶には常人なりの歩みで挑もうではないか。泥濘に足を取られながら赤倉沢越に到着したのは6時寸前であった。コースタイム25分の区間をアントニオともあろう者が40分もかけてしまったことになる。困ったものだ。。。
さて、泥濘さえなければ、と思ったが、受難を暫く余儀なくされた。そして、雲間に覗いていた山頂方向が次第に薄暗くなってしまった。やられたか。矢張り今日は雷に打たれて死すべきか。前進の意欲はやや薄れたものの、泥濘から脱出したアントニオは徐々にスピードを上げていた。曇りでも良い。無事に登頂できさえすれば。
そして、泥濘を越えれば蜘蛛の巣地獄が待ち受けていた。自然は甘くない。アントニオは今日初の登山者であった。蜘蛛業界の邪魔をしているのは此方だった。
都合数百の蜘蛛の巣を破ったことであろう。叶ノ高手から避難小屋にかけて一旦下り返し、最後の登りに執りかかった。あれ、諦めていた天空が少しずつ晴れてきたぞ!!ジャングルの如き会津朝日岳を今、踏み越えてやるぞ!!精神の洗濯に来た甲斐が十二分に発現されつつあった。

山頂にて遠望に見惚れていれば、オコジョが顔を出した。ハレっ。君も来てたのか!今日は良い天気だね!ジャングルは歩いてこない。Web2.0が実しやかに騒がれている昨今、RSSリーダーやAjaxを使おうがジャングルは実体験できないのだ。ジャングル1.0なり。燧ヶ岳、越後駒、会津駒、守門、平ヶ岳、、、この大展望も今此処に居なければ眺めることはできない。参加型?ジャングルには此方から縋りに行くものだ。マッシュアップ?蜘蛛の巣に泥濘が混ざればジャングルだ。ロングテール?会津朝日岳は登山者が少なくて独占欲を満たせるぞ。ジャングルの山頂に、明日を見た。

いわなの里に下山出来たのは凡そ12時。ほぼコースタイム通りである。BBQ場には幾重の人集りである。でも、いわな、高そうだな。
さて、一月半振りの山行にて流した汗は滝の如し。今晩の麦酒は旨そうだぞ。温泉はどうすっかな。ヒュッテの櫻井さんに勧められた木賊温泉まで我慢できそうにないな、と思ったものの、季の郷は露天のない源泉のむら湯と、人工的な露天のある湯ら里の究極の選択に2連敗し、只見町、南郷村、伊南村を粛々と巡った。結局、木賊まで来てしまった。露天は聊かの脱衣場と洗い場があり、西根川の川縁で混浴のスタイルである。のんびり度の違いの解りそうなおじさんが2人湯船で談笑していた。何かしらの期待は無駄である。然もアントニオの入浴中に毒見見物にファミリーまで到来する始末である。見せ物ではないのだ。見るなら一人十万払え。団体割引で一人8万5千円に負けてやらんこともないが。風呂に浸からないのならばとっとと帰れ!このタコ!ううむぅ。川縁混浴露天風呂に十分な洗い場を期待していたのが間違いであった。
午後の日差しの強い木賊温泉にて、歩けば先程温泉で流した汗が水泡と帰す高温の中、宿に行って体を洗い直したく、大人しく檜枝岐方面を目指す。国道でなければ極めて交通量も少なかったが、昨日開通したばかりの新潟県境方向から10台は超える車と擦れ違い、少々面食らった。歯応えの著しい山の後に、御池側からの湾曲路運転も難儀に感じてしまった。
やがて県境を越え、「里の我が家」感覚が蘇った。ヒュッテは健在だった。昨日開通のR352の開通予告がその寸前の一昨日とのことで、ヒュッテの宿泊者も疎らなのは止むを得まい。まぁ、ヒュッテが芋洗いになることも逆に想像できないのだが。
駆け付け一杯、風呂、社内勉強会のための調査、転寝のうちに夜食の時刻を迎えた。今回も初来宿時同様、山で大量の汗として失った水分を取り戻し、そして超越すべく、ベルギーやアイルランドの麦酒を飲み明かした。当初は日曜夜でアントニオに拠る貸切が予想されたが、結果的には常連さんが数名同宿したのだが、心安らぐ団欒がそこには在った。表に出れば蛍が宿前を照らして舞う。火垂るの墓の製作者には悪いが、あれはインチキとしか申し上げられまい。蛍光は緑ではない。生蛍光とは、、、背筋がゾクゾクした。見上げれば無数の星だ。エアーズロックキャンプツアーや畑薙ダムから見上げた空に匹敵する星の数である。3個増えた、1個減ったとかその程度の比ではない。鏤めると言う表現がこの場面に相応しい。疑いたいのであれば貴方も奥只見の地に訪れるが良い。麦酒と美味しい空気と無垢な自然と星空が待っている。
翌日、と言うか、前日夕方から昨日の会津朝日の労の回復を断念し、当初の予定の荒沢岳をキャンセルし、のんびり新潟方面から帰ることにした。衛星LANが開通し、櫻井氏も快適なネット生活を送っている模様であった。アントニオももう少し、此処でのんびり感覚を養うべきであろうか。帰路に寄ろうとしたじねんは辛くも主人が骨折のため休業とのことで至極残念であった。徐々にのんびり度を失いながら、小出ICから関越道の人となってしまった。
(完)

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付録:
山旅アドバイス
・蜘蛛の巣多し。
・泥濘多し。