アントニオにできること5〜雨降って地固まる

不定期連載 山道をゆく 第237話
不定期連載 麦道をゆく 既出
西大巓(庵選千名山526)、西吾妻山(百名山、庵選千名山527)、
東吾妻山(庵選千名山528)、一切経山(三百名山、庵選千名山529)、
吾妻小富士(庵選千名山530)
福島路ビール(デュンケル、米麦酒、ヴァイツェン、エクストラピルス)
【アントニオにできること5〜雨降って地固まる】

7/15(金)
庵庵−佐江戸−県道??号線−谷本小学校入口−谷本小学校−横浜青葉IC
−用賀−3号−C2−S1−川口JCT−安積PA−郡山JCT−猪苗代磐梯高原IC
−R115−県道2号線(米沢猪苗代線)−R459−剣ヶ峰
−県道2号線(西吾妻スカイバレー)−白布峠…西大巓…西吾妻山…天狗岩
…西大巓…峠−県道2号−香の湯−R459−R115−スーパーキクタ
−県道362号線(南福島停車場線)−旅の宿…アンナガーデン福島路ビール
…旅の宿

7/16(土)
宿−広域農道−県道70号線−磐梯吾妻スカイライン−兎平…鳥子平
…展望台…西吾妻山…姥ヶ原…酢ヶ平…一切経山…酢ヶ平…浄土平
…吾妻小富士(火口壁1周)…浄土平…吾妻小屋…兎平−スカイライン
−県道70号線−R115−県道24号線(中の沢熱海線)−母成グリーンライン
−磐梯熱海IC−磐越道−郡山JCT−阿武隈PA−川口JCT−S1−5号−飯田橋IC
−外堀通り−虎ノ門−桜田通り(R1)−ESSO−西神奈川
−県道12号線(横浜上麻生線)−六角橋−片倉町−三枚橋−環2菅田
−八反橋−寺下橋−笹山団地−業務スーパー−庵々

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海の日連休である。13時間、17時間コースをやっつけるのも良いかも知れないが、折角なので福島に行くことにした。宿が何とか確保できたからである。福島路ビールの吉田店長に予告メールを入れておいた。金曜に休暇を採って赴くのだが、先方は土曜からの連休には逆に上野公園でのイベントに来られるらしかった。金曜はなるべく早く伺うと伝えておいた。山の方は2日だが1日6時間から6時間半コースである。それならば気負いもなくこなせるはずだ。
何とか出発前日は定時過ぎに業務を切り上げ、風呂に入り就寝した。2時前に起床して支度をし、2時過ぎに庵々を発つ。鴨池大橋を越えて、佐江戸、貝の坂を経て横浜青葉インターから東名高速を使い、首都高は3号、C2、S1を駆使して川口JCTから東北道に入る。安積PAで給油してから磐越道に入り、猪苗代磐梯高原ICで下車。辺りはすっかり明るみを増しているが気にしてはいられない。R115から県道2号線、そしてR459から桧原湖岸道路へと向かう。天気は上向きの筈だ。行け、アントニオ。
6時過ぎに白布峠駐車場に到着する。先客1台。しかし挙動は不審である。車を出たり、入ったり。行かないなら先に行ってしまうぞ!そのおじいさんは何をしに峠まで来たのだろうか、本当に不気味だった。だがもう日も高い。おじいさんに構う時間はなかった。
6:24、白布峠を発つ。県道沿いの登山道だが、いきなり植生が激しく、夜露に濡れた笹などの大群から存分水分を吸収してしまい、シャツとズボンや数分でずぶ濡れとなった。スパッツを持参していなかったため、ゴアッテクスブーツ内も大量浸水し、被れて全治1週間の被害にもなった。踏み跡はしっかりついているが、笹薮が続いた。西吾妻まで一番高体差のないコースなのでもう少し歩かれていると想像していたのだが、意外であった。幾度も万歳状態で進まないと笹に腕を切られてしまう。藪漕ぎだ。何度怯み、何度退転を考えたことか。矢筈山先の、湿地帯植生保護のための新コースなる地図上の表示に一度は状況の改善を期待したが、如何せん地図は11年前に発行されたものであり、少しはマシではあったが、藪漕ぎを免除されることはなかった。踏み跡は明瞭だから、今年は偶々伐採者が訪れなかったということなのだろう。何時も伐採してくださる方には感謝してもし切れないところである。果たして、藪漕ぎ1級免許皆伝となったアントニオだが、ここが、藪漕ぎ昇段審査会場となるのも時間の問題であろう。




何とか西大巓まで辿り着いた。少々曇っているが、どうせ頂上西吾妻も展望が効かないので構わなかった。此処からは漸く藪に解放され、ごく普通の山道を行けることとなった。お花畑は広がっているが、空模様故にあまり気乗りしなかったものの、西大巓からチングルマ、コバイケイソウ、ハクサンイチゲ、ウズラバハクサンチドリ、ツガザクラ、ハクサンシャクナゲが沿道を彩っており、元気を貰うことができた。



西吾妻山頂はひっそりとしていた。山頂碑裏に観音像が鎮座していた。悲しくも半割れ状態であった。ナームー。
展望のあると思しき天狗岩には着いたが、生憎、お天道様はご機嫌斜めであった。否、風は強く吹いている。北風が、雲を晴らしてくれた!!西大巓へ戻るまで、晴れ晴れとした山域闊歩となった。お花畑が鮮やかである。東吾妻方面も明るい。





西大巓に到着すると、あれま、登山者と出会ってしまったではないか。この時勢、誰とも会わないと思っていたのだが。彼等はデコ口からの登山だと言う。登山口まで四輪駆動車が必須だが、少なくとも藪漕ぎはないらしい。そうか、藪っているのは一部だけなのか。放射能の影響を心配していたが、思った程の惨事には至ってなかったようだ。
しかし、帰路も白布峠への藪漕ぎが不要となることはなかった。
「海は荒海、向こうは佐渡よ」「藪の中にも都はござる」「藪から棒」「藪の中にも3年」「竹薮を叩いて渡る」「国藪れて山河有り」
でも、踏み跡はしっかりついているから、真性の藪漕ぎとは言えないのかも知れぬ。藪漕ぎ最中に、数日前にネットで予約した人間ドック先から電話があった。2月後であれば足の被れはさすがに治っていることだろう。大抵のコースでは、往路が露っぽくとも帰路時までに太陽が乾かせてくれるものであったが、今回は叶わなかった。結局、白布峠まで、シャツもズボンもびしょ濡れであった。変なおじいさんは居なくなった。ああ、12:27。ほぼコースタイム通りである。藪漕ぎは壮絶だった。藪の威力を感じた。自然とは斯くの如きか。自然に逆らうな。
峠に戻ってからはもう200%ビールモードと化していた。確かに温泉などでさっさと汗を流したい気持ちもあり、風呂ビールの方程式を解かない訳には行かなかった。何となしに寄った裏磐梯香の湯である。露天が4箇所にあるようで、日替わりで割り当てを変えているようだ。源泉掛け流しで造りは質素である。表は暑いが湯的には快適で、日陰もあり風が通り抜け、意外と涼しげな温泉である。汗を流す場所としては何処でもよかったと感じていたのだが、この選択は悪くはないと感じた。
今や、麦意は300%である。風呂の次のを急げ。R115も飛ばした。宿付近に至り、スーパーで明日向け行動食にと惣菜パンを買い込んだ。もう今日は麦より他に思い残すことはなし。我は行く、さらば、昴よ。
さて、宿にピットインしてすぐにアンナガーデンに、、、と思いながら、花みずきの看板を探せず、、、土曜日に新装開店となるゑびす庵を見遣り、車を止めて看板の電話番号を確認すると、あ、やっぱり此処か、店名が変わったのだな、で界隈を彷徨う無駄を省くことができた。宿にチェックインし、一目散にアンナガーデンへと向かう。丁度店長の吉田さんがイベント向けと思しき出荷作業に追われているところに出くわした。
アンナガーデン内の醸造所だが軽食も採れるので、カレーにプラスして、デュンケルをジョッキでいただくことにした。デュンケルは水が如く一瞬で胃袋の藻屑と消えた。2杯目は、前回訪問時はなかった米麦酒を所望した。米麦酒と書いて「マイビール」と読む。うん、美味い。やはり福島の山をやった後に、福島の山を見ながら、その山々の伏流水仕込みのビールは格別であった。3杯目、ヴァイツェンを購入しようとした頃に吉田店長が作業を終えて顔を出してくれ、ヴァイツェンは奢っていただくこととなった。3年前文化の日頃恒例の川崎競馬場で開催される川崎市民祭り以来、序盤は合言葉が必要だったが、最近は専ら顔パスで1杯100円引きとサービスを頂いてきた矢先でもあった。 暫く店長と歓談した。某都内のビア倶楽部向けハウスビール醸造が、某毒性飛来物風評の影響でキャンセルとなってしまった件を聞いても暗い顔はなく、逆に、3.11を機に神戸などからの通販が増えたので、普通に醸造に忙しいとのことであった。
雨降って、地固まる。
人の繋がり。日本人の、繋がり。助けられ、助け。地震大国、日本。氷ばかり掴んでいたと思っていた日本人は、国の宝を求めていた。捨てる神あれば拾う神あり。神は日本人に宿っていたのである。こう書けることは素晴らしい。日本人で良かった。日本人、バンザイ。僕も福島を存分飲むことにしたよ。今日のサプライズはこれだけではなかったのだが。

宿に戻る。噂に聞こし召す飯舘村のうどん屋が、明日からこの地に間借りしてオープンするとのことで、関係者が呼ばれて宴となっていたようである。なお、アントニオもその後に事態を理解したのだが、元々あった食堂の名前が「花みずき」であり、宿については「旅の宿」のままであった。建物は繋がっており代表電話番号は一緒だった。平日ともあり、宿泊客はアントニオただ1人のみだった。宴のメイン会場は廊下の向こうの食堂側であったが、食堂からはみ出た者が数名、宿側にいらっしゃり、庵の夜食卓まで空間としては連続していた。夕方に隣でビールをいただいていたので、夜食には地酒をと、二本松のそれをいただくことにした。近くの卓の宴の方が、お祝い事だとのことで、何と無しにアントニオのグラスにもビールを注ぎに来てくださったので、これもこれで非常に有り難かった。宴が五月蝿い、煩わしいなどとの気持ちは何故か微塵もなかった。 宿の部屋は入り組んでおり、アントニオの寝室までは此処での喧騒は伝わって来ないため、皆さんにはじゃんじゃん騒いでいただいて、その勢いでアントニオのグラスもビールでじゃんじゃん満たしていただければ私も一緒に楽しめよう。そして、時は来た。飯舘村の方と会話することができた。綺麗な村とは。肉魚以外は自給自足のムラなのだが、やはり自分で育てたり漬けたりした野菜を食べられることが生きがいである。飯舘村は某所の北部側にあり、西南北同距離にある町村の中でなぜ全域避難対象となったのか。飯舘村は寒かった。3月にも雪は多かった。そんな折に毒性飛来物が飛んで来てしまった場合、雨が降って幾分流される村とは事情が異なっていたのであった。朝摘んだ野菜を食べて過ごすと言う美しい村の噂だ。今も美しいのだろう。その地に再び人が住める日が来ることを、その日が一日でも早くなることを、願って止まない。
そして、これは今や貴重な箸袋である。残念ながら今後数年は増版されないと思われる。だが、必ずや増版されることを願って止まない。そして、ゑびす庵に千客万来を、願って止まない。
翌朝、その食堂で朝食となった。山側は大ガラス張りとなっており、吾妻連邦の大パノラマに息を呑まざるを得なかった。唸ってしまった。おー、スゲー。山、山、山、、、天気は上々だ。登山欲を大いに掻き立てられた。ご飯が美味しい。旅の宿、良かったなぁ。
もうすぐ8時、アントニオ的には遅過ぎる出発だが、祝いの宴の翌日だ、大目に見ようじゃないかと、宿泊費を払って宿を辞去した。一度は道に迷ったが、何とかスカイラインに辿り着いた。今日からスカイラインが無料化である。西吾妻と東吾妻は1日で制覇するのは厳しいからと分けたのだが、分け方次第ではこの無料化の恩恵に預かれなかったのである。非常にラッキーである。しかし、今日までは有料道路であり、安くはない料金体制であったのだが、ならばもう少し路面の整備状態が良くできたのではないかと思うのはアントニオだけだろうか。スカイライン頂上と思しき浄土平の駐車場は有料だが、ちょっと先にも駐車場がある筈だと、地図を見て探したら、ものの数分で辿り着いた。兎平駐車場である。無料だ。勝った。
8:54、支度をして一旦キャンプ場方面へ向かう。程無くトイレを見つけ、用を足してから本線に入ろうと地図も確認せずに駐車場に戻った。その後、先程のトイレの近くから鳥子平方面への分岐が走っていることにやがて気づき、同じ道を何度も往復しながら漸く鳥子平ルートへと進む。車道の側道なので容易いと思っていたが、意外と骨が折れるハイキングルートであった。逆コース、即ち最終盤に此処を通る旅程を組んでいたら、怪我の1つや2つ免れなかったかも知れぬ。鳥子平でスカイラインを横切って登山口を通過する。湿った岩に軒並み苔が付着しており、こちらも下りに利用するべきではないと感じた。何と無しに考えたコース取りだったが、正解だったと思う。


10:33には展望台に到達した。中吾妻、西吾妻に西大巓への展望が抜群だ。藪を刈ってくれる方には本当に感謝して仕切れない。非常に有り難かった

10:49、東吾妻山頂。昨日の西吾妻、西大巓が良く見える。東西制覇だ。一切経や鎌沼も見下ろせた。福島の山だ。秋の風が涼しい。

浄土平、姥ヶ原側からの登山者は少なくない。山頂までは誰とも擦れ違わなかったのだが。姥ヶ原への下りは、火山帯にありがちな溶岩の道であり、多少浮き岩があろうとも、湿り苔岩よりは遥かに安全だった。鎌沼の石楠花が、一度トーンダウンした今日の行脚のモチベーションを上げてくれた。。姥ヶ原あたりにもなると散策者も増えてきた。続く一切経山へも浄土平から革靴パンプスサンダル履きの似非ハイカー達、否、猛者達が足を運んでいた。見晴らしの良い道だ。
12:10、一切経山に到着。山頂の北側を見下ろすと、五色沼である。五色ではなかったが、エメラルドグリーンの鮮やかさに息を呑む。そして、トンボの大群である。トンボだからまだ良い。このトンボが全て蚊であれば、その応急処置のためにキンカンを1本分使い尽くす必要があろう。このトンボが全て蜂であれば、ハイカー数十人にお経を唱えねばならない状況と化していたであろう。

浄土平への直降コースが火山性ガス噴出の影響で通行禁止のため、再び姥ヶ原へ降りてから浄土平へ向かう。姥ヶ原の先は散策コースと思われているようだが、先程の革靴パンプス組にとっては極めてチャレンジングと思える程の凸凹道であった。
13:10浄土平に到着。人集り。少々ガスってきているようにも感じたが、1山だけ登らずに残すのも富士に悪かろうと、小休止の後、13:18にはスカイラインを再び横切った。こちらもハイカーでなく観光客がそれぞれの足回りのまま登りに来ている。階段状の道を10分程度歩いて火口輪に辿り着く。此方の足場は悪くなく、30分程で1周できてしまった。

13:54再び、浄土平に。下山後、浄土平目の前の散策路を行くと、数輪だがニッコウキスゲが咲いており、嗚呼、今日の山も良かったな、と思いながら心地よいフィナーレを迎えることができた。
駐車場に戻り、スカイラインを南下する。擦れ違う車は多いが、南下する車はなく、思う存分のんびりエコ運転することができた。家から持参したロードマップでは、こちらもまだ有料道路扱いの母成パークウェイだが、料金所の跡にも気がつかなかった。磐梯熱海ICからそのまま磐越道に乗り、その後東北道へと進んだ。海の日3連休初日ともあり、S1の東京側からの渋滞が始まっていた。C2や5号も渋滞地獄であった。K1に抜ければ、と思いながらもC1の混雑具合も掴めず、何となしに飯田橋で諦めて首都高を降りてしまった。飯田橋での外堀通り右折だけは難儀したが、その後何とか桜田通りに合流した。そして、3.11に徒歩で通過した三田界隈である。嗚呼。脳裏に蘇る帰宅難民選手権。懐かしい。
普段と違い、2日間フルで山をやりながら福島を満喫した旅だった。
その後川崎市内で給油したガソリンと走行距離を確認すると、燃費は18.2km/lであった。庵々近隣界隈乗り40kmと高速乗りを含めてこれなのだ。福島県内では20kmを越えていたのではなかろうか。素晴らしいエコ運転テクニックだった。
(完)

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付録:
山旅・麦旅アドバイス
・白布峠にトイレあり。
・福島路ビールの店内にあるお土産ビールは非熱処理もの、要冷蔵。
店員に頼めば熱処理ものも出してくれる可能性あり。
・磐梯吾妻スカイラインは11月中旬頃まで無料。
・兎平はキャンプ場方向に歩けばトイレ有り。
・東吾妻山を周回するなら上記コースがお勧め。逆周り(山頂から鳥子平に降りる)
では下りに湿って苔の生す岩場を通過せねばならない。