山梨のもう一つの富士

不定期連載 山道をゆく 第174話
2005GW合宿第二弾
05/04/30〜
05/05/3
太刀岡山(山梨百名山、庵選千名山330)、鬼頬山(庵選千名山331)、
黒富士(山梨百名山、庵選千名山332)、曲岳(山梨百名山、庵選千名山333)
【山梨のもう一つの富士】

5/3(火)
庵庵…鴨居〜八王子〜甲府=清川…太刀岡山…越道峠…鬼頬山
…八丁峰…黒富士…八丁峠…曲岳…めまい岩…観音峠…清川
…前屋=甲府〜かいじ116号〜八王子〜鴨居・ダイエー…庵庵

〜:電車、=:バス、…:歩き・走り

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黄金週間後半戦初日である。混雑しない訳が無い。昨日迄の運転疲れを考慮すると此処は電車行きにすべきか。ノンビリ車内で偶には読書でもするか。電車且つ日帰り圏の山は空爆も進んでしまい、選択肢も大分狭まっていたが、ゆとりのある連休に1日をフルに利用すべきプランは未だ温存されていた。
太刀岡山、曲岳と黒富士の三山だが、数年前から如何に攻めるか迷っていた。岩崎元郎氏は平見城付近に駐車スペースも僅かなため公共交通機関を使うべしと訴えていた。然し、HP等で様子を伺えば駐車スペースの心配はないようである。即ちバスの時刻も心配せずに下山が出来る。然し、往路や帰路の渋滞は如何なものか。
小机始発の八王子行きに乗り、余裕を見てトイレに寄っているうちにホームには幾多の行列が形成されていた。矢張り黄金週間だ。各駅停車とは言え、今日は何時も以上の賑わいである。何とかロングシート部に席を陣取ることが出来た。先日の事故の関係で先頭車両への乗車拒否者が増えたのだろうか、果たして疑問と思える程の先頭車の乗客数である。確かにこの115系は今や旧式、あの車両程は軟ではない筈だ。松本電車区の6両編成車は先頭車両にしかトイレがないのが不便である。スカ線色の編成が車齢の都合で淘汰されつつあるのだろうか。
読書と言いつつも、一日から溜まった朝刊を読破するのが関の山で、程無く甲府駅に到着した。40分以上余裕がある。其れくらい余裕がないと性格上、上手く行かない。この余裕が次なる戦略の構想を練る源泉である。北口のターミナルは小さく、市街地路線が2,3本発着するのみで、昇仙峡は甲府駅より北側なのだが、南口のターミナルでバスを待つ必要があった。バス停の係員は昇仙峡までのチケット売りに余念がない。昨日のテレビで金桜神社の桜が報道されたばかりで氏も饒舌である。やばい。バスが非登山客で埋め尽くされる。登山家はアントニオくらいなものだろうか、登山家が下車すべき清川までの運賃を聞けども氏も覚束ない。折角なので乗車前に運賃を前払いしようとしかけたのだが、「バスで下車時に払って下さい」と業務放棄である。貴様は昇仙峡行きの客しか対応出来ないのか。情けない。貴様の頭脳は昇仙峡のデータしか収められないのか。昇仙峡に行く時でも二度と貴様に世話になるか、そう思いながら3番バス乗り場で待てば、押すな押すなの大行列が出来ていた。若人も溢れている。然し、若人の殆どは対面に到着した新宿行きの高速バスが目当てであった。若人は昇仙峡や当然ながら清川にも目も呉れない。バス内の席取合戦の敵が減ったと喜ぶべきか、昇仙峡になぞ、興味も湧かないのか。昇仙峡が若者に魅力を訴えないのは観光協会の怠慢か。
バスは9時を若干過ぎてターミナルに到着した。運ちゃんは明らかに苛立っていたような気がする。然し、氏も金桜神社の話題に触れ、今日が満開で見頃間違いなしと太鼓判を押していた。また、山梨交通はICカードが利用出来る先進性を兼ね備えているにも拘らず、両替機が新1000円札を受け付けてくれない。運ちゃんに両替を依頼したが、清川で降りるまで待て、とのことであった。バスは紛う事無く98%程昇仙峡を目指す観光客を満載し、甲府駅を数分遅れで発車した。元々ダイヤ編成に「遊び」があったのか、運ちゃんは時計を見ながら回復運転のためにスピードを出し過ぎることもなかった。市街地は黄金週間期の予想を覆すような落ち着いた交通量で、敷島竜王線を経由して昇仙峡を目指す輩も少なく、全く渋滞を心配することはなかった。バスは徐々に高度を上げ、一旦宮沢橋から昇仙峡方面とは逸れた。バス停2つ分程遠回りをしているのである。其のどん詰まりが清川であった。曲岳の登山口である観音峠迄は2時間も歩かねばならないので登山家としてはもう少し上までバスに頼りたいものだが、客も少ないのであろう。バスは清川の転回所に定刻より若干早く到着した。
成る程、待てとはこのことか。徐に両替袋を取り出し、アントニオの新1000円札を500円玉と交換してくれた。さすがに新500円玉は両替機が受け付けてくれた。両替して750円を払い、そそくさと北へ向う。清川で下車した者はアントニオただ1人であった。想定通りである。太刀岡山だけならバス利用も大丈夫であろうが、体力の無い安直登山家達にとって、バス利用で三山制覇は蘇ってアントニオに生まれ変わらなければ困難であろう。かと言ってアントニオが容易く消化出来るかは不明である。昨日までの疲労が癒えているとも言い難い。15時台の便に乗るには約8時間のコースを5時間少々でクリアしなければならない。15時台のバスを逃すと次は18時台だ。昇仙峡迄到達出来ればバス便も多かろうが、果たして清川から10km程度歩かねばならないのである。折からに、夏の日差しである。寒いよりはマシか。光合成によって頑張って5時間台に収めたいものである。民家の脇の看板を目印に早速の急登を行く。確かに昨日は御荷鉾山程度で余力を残せたとも言える。バスから降りたのはアントニオだけだから先客は居るまいと思っていたが、ハサミ岩にはしっかり数人のロッククライマーが既に汗を流していた。岩登りはお任せした。アントニオは先を急がねばならない。
ハサミ岩を過ぎると斜度も幾分緩くなったようで、登山口から約1時間で太刀岡山山頂に到着した。昨日までの群馬行脚に比較して此方は南にも拘らず花の目覚め具合は芳しくなく、残念である。途中の沿道幹間から覗いているのは気付いたが、山頂まで我慢我慢と思って振り返れば、やっぱり兄貴、茅ヶ岳は西側に昼寝していた。其の北側は金ヶ岳か。東側は大菩薩嶺だ。茅ヶ岳は登山口まで適当な公共交通機関はないが深田久弥がネームバリューを上げたし、片や銀幕にも登場しているし、狭間の此処は不遇と言うべきなのか。お陰でとても静かである。甲斐駒を始めとする南アルプス連峰に小楢山なども展望著しく、非常に勿体無い。

北峰行きの道は行き成り獣道の装いであった。北峰の方が標高が上なので、太刀岡山制覇を豪語するには北峰山頂を踏む必要があるが、安直な登山家は南峰に山頂碑を見て制覇感を充足してしまい、其の駒を北へ進めないのであろう。人が歩かないと歩き難くなる。だが、其れは本来の自然の姿なのかも知れぬ。複雑だ。其れを思うと安直登山家を責めるのも難しい。アントニオが太刀岡山寸前で追い抜いたパーティーも、今から三山制覇では日も暮れてしまうであろう。越道峠からまた登り返す。鬼頬山の名に相応しい急斜面を登るに連れ、あまりの急さにもう黒富士近辺までワープしてしまったのかと錯覚したが、其処まで庵速は完璧ではなかった。既に大腿二頭筋のグリコーゲンが枯渇してしまったのか厳しい道程であった。アカマツも笑ってるのか。他に笑う者のいない、侘しい鬼頬山である。此処で遭難したら数ヶ月は発見されないだろう。

其れでも何とか乳酸の溜まった大腿を振り上げながら進むと、幹間に升形山や黒富士が確認された。もう一息だ。此処まで歩いて追い抜いた者は若干一組居たが、擦れ違う者が一人も居ないのも珍しい。やがて元火山の黒富士にて静寂を打ち破られた。山頂碑付近で弁当を広げていた者は、口は軽いが手作業が重く、道標前からなかなか移動してくれないため写真も撮れない。にも拘らず、傍に居た別のグループメンバーなのか、横入りを嗾けてきた。むむむ、この人達は、、、斯くして山頂への達成感を土足で踏み躙られてしまったが、程無く連中が退却し、漸く落ち着いて北東を見遣ると、あの泰然自若たるブロック塀、奥秩父山系のバキュラ、五丈岩が睨みを利かせていた。何となしに岩が清め塩を撒いてくれた感慨である。デカい。大きいことは良いことだ。潔く平伏そう。其の五丈岩を拝する金峰山をはじめ、瑞牆山、笠取山、飛龍山、雲取山、大菩薩連嶺、甲武信ヶ岳、甲斐駒を筆頭とする南アルプス連峰、そして当然ながらニセ八、升形山、曲岳など展望は頗る著しい。果たして、我が居座る此処黒富士だが、富士型なのだろうか。
夏の日差しを浴び続け、曲岳に至らんとする頃には熱射病で軽い頭痛を催したが、脳内デバッグにより頭痛ルーチンの切り離しに成功し、難を逃れることが出来た。ただ、今思い返すと、ガーベジコレクションをきちんと行っておらず、再び不具合ルーチンに巻き込まれる危険性があることを忘れていた。
帰路のバス便の心配もあり、今日のトリプルメインイベント第三弾にして第4山目の曲岳に至る頃には、道標を見落としてしまったのか通過は間違いないが山頂が何処だったか判別出来なかったが、背後の奥秩父山系の雄大さに見惚れて満足してしまい、消化試合感漂う中、先を急いだ。めまい岩付近は切り立っており、疲労が聴牌でもしていると恐怖感が増大してしまう。ただ、下山後の麦茶大量摂取欲望感が其れに辛うじて勝り、脚に鞭を打ちながら進んだ。
さて、観音峠に到着した。鬼頬山付近からは大体予想通りの時刻に各拠点を通過できたが、ガイドブックには上りの2時間しか謳われておらず、果たして下りに何分必要か、不安は否めなかった。15時台のバスまで残り1時間10分程度である。走るか、おぃ。やれるか、おぃ。そしてアントニオはランナーと化した。
途中にめぼしいランドマークも存在せず、果たしてペースが十分か不明であった。時折自家用車と擦れ違う。車で来るべきだったか、、、いかん、負けてはいけない。庵速の怖さを思い知れ。林道に峠の稲妻戦法を刻め。黒富士から鬼頬山に掛けての山並みが見下ろす中、アントニオは更に加速した。
やがて沿道の杉が上空方向の視界を遮るようになり、平見城に近づいたようである。平見城付近には農場もあるのか、観光客も少なからず往来しているが今日は構っている時間がない。急げ。開けてみれば太刀岡山より少々北側に纏まった駐車スペースも左程狭いとは思えない。岩崎氏が回ってから整備が進んだのだろうか。
やがて往路で発見した小泉商店に到着。開けてみれば15時台のバスまで30分も余裕があった。庵速の面目躍如である。ビールの自販機が故障なのか「店内で聞いてくれ」の看板が気になっていた。恐る恐る店内の冷蔵庫を覗くと、あった。是がなくてはならない。麦茶を所望した。店のオバサンは、是から登るのかと聞く。いや、もう3山回って降りてきたのだ、速いわねぇ、まぁ、15時のバス逃すと次は18時になってしまうから観音峠から走りましたよ、、、峠の稲妻戦法は爆発した。映像でお伝え出来ないのが至極残念であった。自販機の看板は、18歳未満の客に容易には買わせない目論みだったのか。
飲みながら長閑な清川地区界隈を歩く。釣堀には数多の家族連れだ。皆自家用車組だから何の困難もなかろう。だが、庵速の正しさが此処にまた実証された。そう、確か宮沢橋までなら運賃は40円安かった筈だ。時間もある。何処か失念したが其のとある停留場以北では自由乗降区間と往路のバスのアナウンスがあったので、最悪、バスに追いつかれたら手を上げて拾って貰えば良い。バスが来るまであと20分はあるぞ、幾らケチるか、アントニオの真骨頂である。峠の稲妻戦の余韻覚めやらぬ中、ビールを飲み干すや否や、アントニオは再び舗装路を走り始めた。住宅も無い片田舎地域に次のバス停を探すのは容易ではなかった。高々バス停1つ分だが大分走らされた。あと7分か。うむ、降参しよう。そうしよう。
やがて満席に数人の立ち客を乗せたバスが前屋のバス停に到着した。シーズン時は昇仙峡始発から満員で、途中バス停からの乗車すら覚束ないとの脅し文句を各ガイドブックに散見したがラッキーだった。当然ながら前屋バス停から乗車したのはアントニオただ一人であった。市街地でも追加客を乗せたり、湯村温泉で下車客を見つけてはそそくさと座席を確保した。心配していた市街地の渋滞もなく甲府駅に到着した。復路運賃は660円也。バス停3つ歩いて90円分稼いだ。ふふふ。歩力は金なり。
バスが運良く定刻より若干早く到着してくれたため、帰路の電車便の選択肢が広がった。あずさにも十分間に合ったが自由席に座れるか不明なため、満を持して始発のかいじ号を選択した。他の号車は行列がやや長めだったが、階段下の4号車は運良く4人しかいなかった。Kioskでもう一缶を所望し、また、ホーム内券売機で自由席特急券を購入し257系電車を待つ。あずさより停車駅は多いが、スピード感は遜色ない。GW後半初日の上り電車故か、途中駅で幾多の乗客を乗せたものの満席には程遠い空き具合であった。自由席券をケチると各駅停車では1時間も差が出てしまう。時は金なり。或いは帰路に余計なエネルギーを消耗出来ないほど耄碌してしまったのか。一縷の贅沢と言うべきか。
峠の稲妻戦時はもう明日は歩くまいと感じていながらもかいじ116号麦茶療法により阿呆が如く疲労を忘れてしまい、スーパーに寄って明日へ向けての買出しにまた余念がないアントニオであった。

(完)

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付録:

山旅アドバイス
・信州色(スカ色でないやつ)の115系6連は、松本側先頭車にのみトイレあり。
・甲府駅はSuica対応自動改札・券売機あり。
・バスは昇仙峡行きのため、下手すると往路でも座れない可能性あり。
・甲府・清川間のバス運賃は750円。山梨交通バスの料金箱は未だに新1000円札が利用できないため、時間があれば甲府駅の事務所でICカードを買うなどすると良い。
・バスは昇仙峡寄りの区間では(少なくとも前屋以北は)バス停以外でも乗降可能。
・清川から数分北へ歩くと小泉商店あり。食料、飲料調達可能。
・太刀岡山、鬼頬山への登り、曲岳からの下りは急過ぎる。雨天時はとても危険。
・土曜日の甲府行きバスは時刻が1時間繰り上がるので要注意。