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三角錐は

不定期連載 山道をゆく 第177話
駒津峰(庵選千名山341)、
甲斐駒ヶ岳(日本百名山、山梨百名山、信州百名山、庵選千名山342)、
双児山(庵選千名山343)
【三角錐は】

6/18(土)
庵庵−R16−八王子バイパス−八王子IC−釈迦堂PA−諏訪南IC−R20−R152
−美和ダムの手前−仙流荘−美和ダムの手前−仙流荘=北沢峠
…仙水小屋…仙水峠…駒津峰…甲斐駒ヶ岳…駒津峰…双児山
…長衛荘・北沢峠=仙流荘−南アルプスむら−R152−諏訪南IC−談合坂SA
−八王子IC−八王子バイパス−R16−庵庵

−:車、=:バス、…:歩き・走り

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
新規契約の製造元のCEOが富士山に登りたがっていると言う。ナヌ〜!因みに「Nane(ナヌ)?」はフランス語で感嘆を表す単語らしい。製造元はフランスにある。富士山は見る山であり登る山ではない。いっそ、北岳にお連れして山頂で解散し、アントニオは其のまま間ノ岳方面へ縦走を続けたい。競走して勝ったら仕入れをタダにして貰うか。然し、敵もロシア出身、ロシア人と言えばアナトリ・ブクレーエフ氏は忘れられぬ。格闘技では粗負け知らずのエメリヤー・エンコ・ヒョードルなど、人間サイボーグのイメージが付き纏い、天下分け目の山岳戦の予感が否めない。富士に行くなら鍛えねば。山登りリクエストに対して200 okが戻らなければ忽ち高山病であろう。
寸前まで標高1967mの巻機山を見据えていた。紀行文HPを検索縦断すれば、雪はあっても左程の困難はない、との情報を得て準備は万端の筈だった。然し寸前で天気予報を見比べると山梨県にやや分がある。あの憧れのピラミッドをやってつけてみるか、と一気に2967mと目標を1000mも上げてしまった。ものの弾みとしか言えまい。出発してからのものの弾みの危険性を確認した。この土曜日は、長谷村営バスが歌登発着から北沢峠発着へ延長されるシーズン最初の週末なのである。だから行けないことはない。だが、雪は如何程か。HPに記録を録るような週末登山者がやるとすれば、将に今日、シーズン初の甲斐駒アタックになるのだ。残雪状況をまったく確認していなかった。巻機山より1000m高いのである。鋭峰の逆鱗に触れるのだろうか。始発のバスに乗って第2便で折り返せるなぞ夢のまた夢かも知れぬ。今日は第3便に甘んじるしかないか。雪にどれだけ阻まれるのだろうか。考え始めると夜も眠れない。眠っていては長谷村には到達できない。大き目のサービスエリアはトイレまでの移動時間が掛かるため、時短の目的でパーキングエリアを模索した。釈迦堂PAには若人の人集り、彼らもETCの夜間割引が目当てなのだろうか。
インターチェンジ一区間分の料金を節約するため手前の諏訪南ICで高速を降り、国道を走る。国道も陸の動脈、トラックは深夜だろうが減る様子もない。茅野で国道は152号線に逸れ、只管南下して長谷村を目指す。薄墨色の夜が明けようとした頃、美和ダムの手前でシカに遭遇した。花の撮影に気をとられているうちに行方不明となってしまったが、朝4時台にきっとアントニオを迎えてくれたのだろう。気持ちが通じていた筈だ。間違いない。
幸先の良いスタートを切れたような気がする。と思いきや、自宅の鍵をまた紛失してしまったことに気付く。先程のシカ撮影未遂地に落としたか。ハタマタ、トイレに寄った釈迦堂PAか。PAには電話を掛けて確認すると係りの方が律儀にもトイレまで探してくれたようだが、残念ながら見当たらないとの回答であった。一気に幸先が悪くなる。さもなくば、あの、シカ遭遇時に気の緩みで落下させた可能性も鑑み、仙流荘着は未だ4時半で始発バスには時間的余裕が十分あるため、ひとっ走りして現場に戻る。周辺の路面を隈なく探すも見当たらない。鹿も然り。矢張り釈迦堂で行方不明になってしまったことなんだろう。沈みがちな気分で居るうちに、バス停付近に人集りが形成されつつあった。やや、もうこんな時刻か。バスのチケットを買って並ばねば。
やがて時計の針は6時を回り、のそのそとバスが動き始めた。前回見なかった、行き先表示板がLEDタイプの最新車両もあった。この戸台口と北沢峠間しか走らないと思しきバスなのに、LEDは不要ではなかったのか。それとも其の方が安いのか、はたまた現在はLEDタイプの車両しか購入出来ないのか。シーズン開幕の仙流荘前には村営バス側の予想を遥か上回るハイカーが押し寄せていた。アントニオの前に既に2台が先発して行った。アントニオは漸く3台目に座席を確保した次第である。帰路のバスの運ちゃんの談に依れば、始発のマイクロバスは彼等の予想の2台に留まらず、5台の出動だったと言う。
バスは彼是標高差1200mを埋めるべく、じりじりと林道を這って行った。南アルプス林道の南側、仙丈ヶ岳方面より北側の方が若干雲が多目に見えるのが心配である。庵速運転が通用するのか。そもそも雪は既に消えているのだろうか。
やがてバスは北沢峠へ到着した。思い思いの面々が散らばって行く。仙丈ヶ岳を目指す者。トイレ休憩や準備運動に勤しむ者。アントニオが如く甲斐駒を目指す者も少なくはないだろう。中には、以前、共産党の不破氏の紀行文に触発されてアサヨ峰を目指す者も居るだろう。アントニオは先ずは仙水小屋を目指さねばならない。少々南アルプス林道を歩いてから逸れるのだが、先行く者を見て感嘆した。幾重のハイカーが広河原を目指しているのだ。一人二人ではない。複数のパーティーである。感嘆を禁じ得ない。アントニオ並、否、凌ぐマニアなのだろう。白峰三山が彼等を待っている。
仙水峠経由の甲斐駒ハイカーの数は少なくはないだろうとは思うものの、土曜日の睡眠不足の疲労の中、庵速を振り絞っている積もりだが中々スピードが出ず、小屋迄到達して誰も追い抜けずに焦燥感を覚えずには居られなかった。コースタイムにもモノの数分しか先んじていない。このペースで午後一のバスに間に合うのだろうか。諦念さえ沸かせつつあった。今日はスピードが出ない。諦めよう。

小屋を過ぎて暫く石楠花ロードが続く。遅過ぎたヤマザクラが遅過ぎることはないと叫ぶ。大ガレ場で見晴らしが良くなると光合成が唸りを上げ、何時しか本来の庵速を取り戻していた。あれが、アサヨ峰!地蔵岳!後ろには仙丈!うむ。摩利支天の異彩か。うむ。やってやろう。目前に控えた主峰は思ったより尖がっては見えなかった。

仙水峠で既に豪快な山容にすっかり弛緩してしまい、お腹一杯ながらも駒津峰を目指す。むむ、あれは、あの、日本で2番目の高峰か。むむむ。南アルプス一万尺小槍上でアルペン踊りをさぁ踊りましょう。今目指さんとする甲斐駒ヶ岳は中央線並びに中央道からは誰もが確認出来る凛々しい三角錐だが、人は更に上を目指したいと思う欲望を抑え切れず、其の頂点に秋波を送り続けることであろう。大体、当初の予定の山頂は標高が1967mなのに対し、此方はバスで2032m迄登って来てしまっているのだ。もう既に反則だ。反則を犯した者の快感に酔いしれたまま、駒津峰を踏んだ。我が主峰、甲斐駒を筆頭に、其の脇を固める摩利支天、仙丈、北、小太郎、アサヨ、地蔵等の名峰が視界を埋め尽くし、暫し圧倒されていた。此処で完璧に緊張の糸が切れてしまったことであろう。致し方あるまい。この眺望をくれてやれば泣くアントニオも必ず黙るであろう。
さて、あと一歩のように見える。直線距離を目算すれば数十分の距離だろう。だが、山頂手前に急降下が待っていた。急降下から先が長い。頗る長い。何故神は山頂の前に砂礫を与えたのか。風雲急を告げ、空の灰色度は其の濃さを増して行った。否、空は気紛れだ。灰色になったり、とっても青いそ〜ら〜、空は教えてくれた〜♪と小中学生時代の合唱曲を体現するような描写になったり、目の前のアントニオを弄んでいた。中々ピラミッドの頂には容易に近付くことは許されなかった。目まぐるしかった雲も終ぞや停滞してしまい、砂礫に喘いだ末の山頂は、すっかり闇の中に包まれてしまっていた。直登の難路コースに迷い込んだのか、蟻地獄のような山頂直下である。進めども進めども、山頂への距離が縮まらない。幸い雪に阻まれることはなかったが、砂礫の逆摩擦に進退窮まれりと何度考えさせられたことか。目の前だ、目の前だと思って大砂原に泳ぎ疲れ、休憩を取り損ねること数十分、餓死寸前であった。

山頂を占める人数からすると、黒戸尾根からの猛者も少なからず羽を休めて居るのだろう。夢にまで見たピラミッドは斯くの如きか。真っ白な全景の中、時折摩利支天が覗いたりするも、気休めにはならなかった。蟻地獄のような砂礫の暁にはガスが待つ。シナノキンバイの微笑は残念ながら気休めにもならなかった。三角錐は遠きにありて思うもの。山頂碑で記念撮影をし、数十分天空の分け目を狙うも我が意を得ず。常念は2度ともガスに巻かれた。此処は未だ初回である。今日は駒津峰の壮観に平伏して最早ゲームオーバーであった。そろそろ下山しないと午後一のバスには間に合わない。降りるか。次回は黒戸尾根でガツンと一発挽回するか。

登って来た砂礫の跡も不案内になり、何時しか砂漠に進路を失っていた。甲斐駒砂漠のジプシーとなって数十分彷徨い、道を誤らねば下る必要もない雪渓に恐る恐る足を踏み入れ、靴底がスリック状態のブーツで慎重に歩を進めた。午後一バスが遠ざかる、、、何とか正規ルートに合流するも、既に摩利支天訪問時間を逸し、否、蟻地獄受難によって大腿筋に多大なダメージを被って摩利支天立ち寄りの気力さえ沸き上がらず、大人しく駒津峰へ下るしかなかった。
駒津峰、往路よりは雲が多いか、丁度仙水峠方面から初老の夫婦が到着した所であった。聞くところによれば、彼等は始発便のバスに乗って漸く今此処に到達した次第なのである。始発便!そうか、アントニオとしては何名もに先を越されて庵速でも追い付けずに辛酸を舐めさせられたと思いきや、スタートラインから独走状態だったのである。是から山頂を目指す夫婦が到る頃には雲が過ぎ去っていることを祈って止まない。

さて、アントニオは帰路を南へ採る。双児山ルートは寂しげながら、ガイドブックの案内を物ともせず2人の若いカップルが此方側から登って来たのには拍手を送りたい。多分、彼等は何も判らず北沢峠から双児山ルートを選択したのであろう。選択した精神如何はあれ、人とは同じではいけないと其の選択を曲げずに駒津峰迄到ろうとする根性には一礼を拝したい。蟻地獄後の仙丈観覧は目の保養にもならず、ただただ惰性で下るのみであった。東駒は見る山だよ、と石楠花の心細げな声を聞く。こんなもので富士行脚が完遂出来るのだろうか。今日の収穫は、駒津峰からの眺望と7時間超コースを5時間強に収めたこと、とのことで満足するか。富士は富士の風が吹け。其れは其れでとても怖いけど。
双児山からの下りに飽きた頃、何とか長衛荘脇に到着。小屋のおばちゃんだろうと思しき方に、ビールはありますか、と問うた。あるよ、飲んできな、気の良い返事だった。朝の便で来たのかい?早いねぇ。ゆとりが必要だったか。ゆとりがあれば、山頂から晴れ間を確認できたかも知れない。快速下山は万能ではない。おばちゃんが他の客と話し込んでいたのを聞くところによると、登山口の宿は中々ハイカーに泊まって貰えないものだとの嘆き節である。成る程、成る程。この登山口、北沢峠へは一般車両が通行止めなので、山梨側からも長野側からもバスでしか到達出来ない。最終のバスに乗ったとは言え、少しは登る時間的余裕は存在する。何時か、そうだな、仙丈もリベンジが必要だから其の折にでも泊まってみようか。
前回の仙丈の時は7月中旬で夏山も盛り、午後一便のバスは1台なれども満席だった。然し今日は若干7名。皆存分時間を掛けて夏山シーズン開幕直後の逍遥に励んでいることだろう。往路や前回の帰路とは打って変わってガラ空きの林道バスは経験もない。始発便でやって来て、第2便で去って行く酔狂はアントニオ以外には見当たらなかった。運ちゃんも若く、前例のような、沿道の名所アナウンスもないのかと思いきや、鋸岳のキレットを指して言う。キレットの「穴」が確認されたのである。余程晴れ渡っていないと確認し難いものらしい。然しながら、其のキレットを実際に超えるには至難が付き纏う。アントニオに縁が果たして巡って来るだろうか。日本二百名山にもカウントされている、鋸岳。行程が長いだけなら何とかなるが、難所も続く。或る意味ガンダーラ、否、ジャンダルムと言うべき僻地なのだろう。
さて、乗員7人が挙っても仙流荘の浴室はごった返すことはなかろうと、今回は其の湯に浸かることにした。温泉の浴槽は一部のみのようだが、宇宙エネルギーの湯など、其れなりの売りを秘めて皆の来場を心待ちにしていた。さくらの湯も500円だし、此処も500円だ。夫々の500円の使い道だ。
みちの駅南アルプスむらのベーカリーは前回から目を付けており、今回は存分腹を空かせてファミリーサイズのピザパンを所望した。今日もジモティで店内は盛況だ。シーフードミックスの棚を模索したのだが、残念ながら中にはベーコンが混ざっていた。もうピザパンの顔も見たくない程、ピザパンを食べた。
さてさて、前回は高遠市界隈の道案内票が小さ過ぎて諏訪方面への分岐に気が付かず、思わず伊那市方面へ迷わされたのが、今回は慎重に往路のルートを辿り、何時までも田園を貫くR152の人となっていた。
中央道の小仏トンネル渋滞は未だ可愛い方だったが、R16が悲惨だった。トータルで往路の1.5倍の時間を費やした。高井戸→4号→3号→用賀→第3京浜などと1500円の追加出費を惜しまなければ渋滞地獄は免れ得たかも知れない。渋滞で時間を失うのは元より、燃費悪化で地球に優しくないのが歯痒いところである。

(完)

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付録:
山旅アドバイス
・アイゼンは不要。
・甲斐駒ヶ岳山頂付近は濃霧時は迷い易いと思われる。 要注意。