五月晴れ

不定期連載 山道をゆく 第187話
06/06/10
唐松尾山(庵線千名山371)
【五月晴れ】

6/10(土)
庵庵−青砥上星川線−緑図書館−町田街道−淵野辺−R16
−鹿沼台−城山−R413−R20−上野原−県道33号(上野原五日市線)
−県道18号(上野原丹波山線)−R411(大菩薩ライン)−一ノ瀬林道
−民宿みはらし…牛王院下登山口…七ツ石尾根…牛王院平
…山ノ神土…西御殿岩…唐松尾山…西西御殿岩…唐松尾山
…山ノ神土…将監峠…将監小屋…牛王院登山口…民宿みはらし
−一ノ瀬林道−R411−上野原丹波山線−小菅の湯−上野原五日市線
−甲州街道−R413−城山−下九沢−富士見三丁目
−相模原ゴルフクラブの脇道−若松二丁目−R16−保土ヶ谷バイパス
−環状2号−Z one−環状2号−R16−青砥上星川線−庵庵

…:歩き、−:車

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
陰鬱な天候の週末が続いている。晴れたら登山に行かねば精神的損失は計り知れない。日照量不足が庵内光合成不足を確実に助長していた。金曜夜に気の置けない面子間での飲み会が開かれるので、これもまた外すことは出来なかった。飲み屋でお茶会までも敢行された。結構なお手前であった。然しながら、今までのアントニオと違うのは、毅然とした態度で飲み会からの早退を決意、決行したことである。山慣れも霞み、泥酔翌日の早朝出発は危険と判断していた。早退したとは言え、帰宅して翌日の支度を調えるうちに日付変更線を越えてしまった。
何とか4時台に起床した。既に辺りは明るい。以前なら丑三つ時には庵庵を発っていた筈だが、、、まぁ良い。何とか起床出来ただけでも運が良いではないか。入梅翌日に五月晴れとは気象庁も勇み足だったのではと感じたが、五月晴れならば幾らでも歓迎だ。
4時半過ぎには庵庵を発ち、先ずはESSOで給油した。そう、先週の香港出張向けに借りたガイドブックを図書館に返却しなければならなかった。なお、最新版は予約殺到で埒が明かず、1,2年前のものを2冊予約したのだが、うち1冊の予約が通った頃には既にアントニオは香港の人となっていた。
R16もこの時間帯では混雑もなかろうとは思っていたのだが、図書館に寄ったその序で態々町田街道を選択した。結局R16利用は淵野辺から鹿島台までの僅かな距離だった。以後は何時ものルートを辿った。三ヶ木以西の移動には、トロトロ前を走る運送会社のトラックに面を喰らったが、これは安全運転しろとの神の思し召しだろうか。今回はビタ1mたりとも有料道路を利用せず、上野原に至った。そして、従来は小菅の湯からの帰路に利用していた、厳密にはそう思い込んでいた、県道に進んだ。どうも沿道の風景に未知な趣が多く、 後程地図を見直して気付いたが、従来とは別の道を進んでいたようだ。ただ、距離は左程変わらない。帰路に発覚したが、従来選択していた県道521号線が工事のため全面通行止めであることが解り、33号線の選択は必然であった。往路からカーブにアップダウンの激しいルートはしんどい。小菅の湯も今から寄る訳にも行かない。タイヤ跡も生々しく、走り屋には愉しいルートだと思うのだが、アントニオにとって休部号乗車中の幾多のカーブやアップダウンは目的とはなり得ない。丹波の村役場を過ぎ、漸くやや平坦な大菩薩ラインに合流する。一ノ瀬川橋を渡って林道に逸れ、暫くぎりぎり1車線道路を対向車が来ないか冷や冷やしながら運転する。 一ノ瀬川沿いに北上すると降って湧いたように集落が出現した。一ノ瀬高原と呼ばれるこの集落は、合宿等で偶に利用する分には静寂で申し分ないが、日常生活には少々不便を余儀なくされるのではなかろうか。目を皿のようにしながら登山口を探すと運良く見つけられたものの、至近に無料で駐車できそうなスペースは存在しなかった。折りしも道路交通法改悪直後である。この片田舎に監視員が点数稼ぎに来るとはとても考えられないが、路駐するには余りにも道幅が狭く、置けそうな地点からは相応の歩行を余儀なくされそうである。民宿の有料駐車場に止めるとするか。500円できっぷから解放されると思えば安いものだ。丁度宿からおばあちゃんが表に出てきたところで駐車を希望した。500円を払い、駐車場下の花壇に見惚れながら出発した。
暫くは四輪車も通行可能な林道を登る。牛王院平に山ノ神土と、神道染みた地名が気になった。牛王院の読みはゴオウインであり、御王院や護王院の字が充てられることもあると言う。 牛王は厄除けの護符である。また、ごぼう金を埋めたとか、周辺に金山の臭いも漂っていた。林間にもう少し花の色を楽しみたかったのだが、レンゲツツジの疎咲きが水無月の秩父感を辛くも演出しており、1月振りの山行きの清涼剤となった。心躍らされる、今。五月晴れの空よ、待って居ろよ。
山ノ神土から山頂への途上、西御殿岩へ折れるルートは雨上がりで滑り易く、此処を戻るのは避けたいと思ったくらいだ。だが展望地が呼んでいるからには行かねばならぬ。2,000mクラスの展望地に、今年初めて到達した。石楠花に馬酔木が迎えてくれた。遺憾なのが、最近の携帯は顔文字辞書が豊富な替わり、植物名の辞書が削除されてしまっているのだ。情けない。石楠花、馬酔木くらいは変換できて然るべきだろう。重成を一発で変換したPana辞書よ、猛省を促したい。西御殿岩からは鶏冠山、大菩薩嶺、富士、飛龍、雲取、和名倉、笠取、そして寸分先の、唐松尾が一望された。展望は雄大だ。少々五月晴れに翳りが見えつつあったが、この視界と静寂は、誰も我が目の前から奪うことはできなかった。

少々戻って再び山頂を目指す。山頂に三角点があると言うことは、嘗ては展望雄大だったことを示している。さて山頂碑は何処だろう、この辺りだろうと思いながら見過ごしてしまった。数m先にはバリケードが張られていた。未だ山頂に至っていないと勘違いしたアントニオは、バリケードの隙間を縫って更に西へ進んだ。地図上ではやや難路を示す破線コースとなっているが、案外踏み跡はしっかりしており、躊躇することもなく前進を決められた。数分進むと、おや、先程の西御殿岩より少々狭いものの、露岩の展望地に到達した。特に地名はなさそうだ。西西御殿岩とでも命名するか。唐松尾山に展望がないと方々のホームページに記載されていたが、ふふふ、お主等、此処まで歩いてないのだな、ふふふ。
暫し、独占欲に溺れながらの写真撮影の後、東へ戻ると、三角点の近くに山頂碑を発見した。東側から登ってくると丁度死角に入って見えなかったのである。三角点の存在から山頂碑の存否を訝って探せば発見には労を要しなかったであろう。お陰で西西御殿岩からの展望を楽しむことができた。あの場面でバリケードを通過する勇気は、アントニオの山家魂が未だ衰えていないことを意味していた。自分ながら天晴れであった。
山ノ神土に戻り、時間の余裕を考えて将監峠と小屋への寄り道を選択した。寄り道と言うには物足りないかも知れないが。この将監と書いて「ショウゲン」と読ませる地名は予てから山家アントニオに秋波を送り続けていた。甲斐武田氏家臣の芹沢将監の、甲州行きの通り道として名を連ねた模様である。あの犬越路よりは随分と越え易い峠と言えよう。峠からゲレンデを下ると程無く小屋に到達した。
将監小屋の将ちゃんが吠え立てて此方に向かって来た。放し飼いのワンちゃんである。一瞬たじろいだが、歩み寄ればとても大人いワンちゃんであった。将ちゃんとしても、アントニオが無害な霊長類であることを察して吠えるのを止めたのだろう。程のなく小屋の主、監さんが訪れたため、麦酒を所望した。唐松尾に行ったのか?西御殿岩は?他愛もない峠の我が家での会話であった。監さんに話せば西西御殿岩の存在についても知っているのではとは思ったが、初めての訪れで出しゃばって監さんの癇に触るのも悪かろうと黙っていた。峠の我が家には悠久の時が流れていた。将ちゃんと監さんのその時の流れを乱し続けたくはなかったため、1缶空けてはそそくさと下山することにした。
林道を下る。それもその筈、監さんの営業用と思しき軽4輪トラックが小屋の脇に停めてあることから、下界まで車幅の続く林道が繋がっていた。MTBがあると重宝することだろう。山ノ神土の先から西御殿岩抜ける道が滑り易かったことを除けば、概して歩き易いルートであった。ガイドブックにも見落とされがちなこの唐松尾山にして、斯くも歩き易いとは想像できなかった。
12時半過ぎに花畑の彩りカラフルな民宿みはらしに到着した。おばあちゃんには案の定、早いねぇ、と言われる。まぁ、お茶でも飲んできな、ってなところでお茶にお茶菓子、さらには蕗の漬物と蕎麦の葉の胡麻和えも出して頂いた。むむむ、駐車場台500円でこれだけ景品がついているのか!!!お買い得だ!然しながら、手打ち蕎麦の幟も気になり、幾らか問えば、1000円とのことである。むむむ、数百円台を期待していたアントニオにとっては挑戦的な価格ではあったが、此処はおばあちゃんに賭けて見ようと、注文を試みた。
当たりである。独活のぬた、大根の柚子漬けにプラスして全部の麺の太さが異なる手打ち蕎麦が登場した。先程の2皿を含め、ツケ蕎麦に山の珍味4品である。これは小菅の湯の食堂での実現を期待していた食卓であったが、予定外の繰上げ登場に嬉しく裏切られてしまった。今日の運勢は快調であった。
おばあちゃんに別れを告げ、一ノ瀬林道を下る。スヮ、アレは野性の猿か。俺が来るのを待っていてくれたのか。有難う。大菩薩ラインを丹波の村役場で逸れ、山を越えて小菅の湯に到着した。小菅の湯では100円割引券を提示した。チケットを洞察するスタッフ。裏を捲れば有効期限が昨年8月末日となっていた。あちゃー。あかん。無念。と思い、仕方ない、正規料金を払う積もりになっていたのだが、少々窘められただけで、100円引きの恩恵を授かることができた。済まぬ。いや〜、有効期限を無視しろ、などと別に脅したわけではない。無効なら無効で構わないからさっさと風呂に入らせろ〜視線を彼等に浴びせ続けたのだが、それもある意味脅しだったのか(笑)。
風呂上りの食卓を、と思ったら、春の菜の天麩羅は辛くも売り切れであった。人気商品なのだろう。でもいいのさ、アントニオは既にみはらしの蕎麦セットを堪能したのだから!
今日も余裕があったので権太坂にて権太坂を所望した。奥秩父縦走路点と線描画は着実にフィナーレに近付いている。あと、残すのは雁坂嶺ぐらいか。

(完)

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★

付録:
山旅アドバイス
・唐松尾山最短ルート登山口付近は駐車場探しが億劫かも。
・将監小屋までMTBなど可。
・概して登り易い。