菖蒲

不定期連載 山道をゆく 第158話
04/06/28 櫛形山(日本二百名山、山梨百名山、庵選千名山283)、
裸山(庵選千名山284)
【菖蒲】

6/28(土)
庵庵−ガソリンスタンド−三ッ沢IC−新山下IC−小港ビューコート
−新山下IC−保土ヶ谷バイパス−R16−淵野辺−八王子バイパス
−八王子IC−釈迦堂PA−甲府南IC−R140−R52−県道143号線−丸山林道
−池ノ茶屋林道−登山口…三等三角点…櫛形山(奥仙重)…裸山
…アヤメ平…櫛形山…三角点…登山口−赤石温泉−みさき耕舎
−R52−R140−中道農産物直売所−甲府南IC−談合坂SA−相模湖IC
−R20−R412−R413−淵野辺−R16−中山駅−庵庵

−:車、…:歩き

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海苔蔵が何故か呼んでいた。一昨年前の秋、会社創立記念日の上高地は一面氷結に閉ざされ、バス便を阻んでいた。乗鞍高原の馬肉ステーキ気に係り、足三里に灸据えるも願い適わず、天気予報は海苔蔵から今日も我を遠ざけていた。果たして、昨今の天気予報には裏切られ、晴天中を仕方なくジョギングして土曜日を過ごす。海苔蔵は本当に拒んでいたのか。炎天下でバテを感じつつも、夕方にはメンバーと処遇を再考し、曇り程度であれば花を愛でに櫛形辺りにでもとの可能性を探ることにした。また一馬肉差で遠退く乗鞍岳だった。
2時前に起床したもののガス欠寸前を忘れており、給油して急いで高速を目指す。確か石原Jr.のお陰で夜間は半額との記憶を頼りに、長距離でないながらも首都高神奈川線のお世話になった。後で確認したところ、半額ではなく30%引きであることが発覚、うぬ、ヤラレタ。若干の遅れは否めなかったものの、午前3時頃の国道に滞りも殆ど見当たらず、十数分程度の遅れで淵野辺にて全員集合となった。今迄幾度となく利用した中央道だが、釈迦堂PAを利用したのは今回が初めてではなかろうか。開通したばかりの南アルプスIC利用が至近であろうが、地図を確認するとどうも遠回りで料金だけ嵩みそうな心配から、甲府南ICから下道を行くことにした。甲府盆地はどす黒い雲のカーテンに覆われ、今日ばかりは笹子トンネルマジックも通用しそうにない。潔く花を愛でよ。花に水、人に愛、そして料理に馬肉。そう言えば昨今の山々では鹿の食害で砂漠化が深刻だ。馬肉ばかりに気を取られている余裕はない。鹿に餌を与えてはいけない。山の鹿は半ば人間が飼い馴らしてしまったとも言えよう。
さて、林道に入る。舗装路だがとても狭く、オマケに朝もはよから対向車さえある。林道は優しく走ろう。人は低きに流れ、林道は高きに聳え、自然は壊る。そして今日は久々の安直ハイカーとして、櫛形山山頂に最も近い登山口を選択した。鬱蒼として展望の効かない櫛形山山頂に、こうでもしなければ訪れる機会を設けることは難しかろう。絶滅危惧種のキバナノアツモリソウに出会えるであろうか。此処まで車で登り切ってしまった人間は、彼等の生息地を簡単に奪って来てしまったことに全く気付いていないのだ。
長い長い林道の果てに、それでも皇海山への栗原川林道よりはシンドくはなかったが、登山口が存在した。休憩舎にトイレもある。早朝で未だ車の数も少ないのであろう。寝不足で若干の不快の渦に溺れつつもひんやりとした空気に包まれ、是だから山は許してしまえるとほくそ笑みながら、隊員の準備を待つ。山頂は本当に展望が効かないのか。かと言って、天城山のように元々展望の効かない地で態々視界を広げるための伐採が行われたことも許し難い。山頂夫々の顔があるのだ。鬱蒼とした山頂を慈しむ心を持ち合わせろ。自然を理解しないピークハンターはおととい来やがれ。
と日頃の業務疲れで荒む心地の暴筆になってしまったが、以前程は毎週山に行けなくなって、様々な怨念や執念を背負っての旅立ちも多くなってしまった。そんな中、山から得られる精神への見返りは計り知れない。もう、既に心がほくそ笑んでいる。母なる大地、山よ。一歩貴方に踏み入れると、途端にフィットンチッドと心中していた。キバナノアツモリソウは何処んぞ、やや霧の立ち込めた尾根を闊歩する。コメツガとダケカンバ、カラマツの森よ。アツモリソウには及ばぬものの、グンナイフウロ、クルマユリ、オオカメノキ、ナナカマド、コミヤマカタバミ、ベニバナ、エンレイソウ、ヤマオダマキに彩られた山道を今日も行く。何時しか我々は、霧とパステルカラーの青空の狭間を往復していた。そして、裸山に近付くに連れ、菖蒲の群生を思い知った。成る程、是は群生と言わずに何と言おう。参った。裸山。空は水色。夏の日差し。麦茶指数急上昇。我々は麦茶のために生まれてきた。馬肉への妄想は知人の持参したベーコンにて霧消した。

太陽光線を浴びながらの菖蒲の群れを眺めつつの腹拵えに我々は南アルプスの視線を一身に背負っていた。さて、名に聞こし召すアヤメ平は此処より勝るものか。裸山から歩を進め出すと霧が再び降臨し、幻想空間へと誘っていた。菖蒲目当てのハイカーは破竹の勢いで増す。あれ、此処がアヤメ平なのか。。。確かに群生か、、、然し、裸山の眺望空間の其れには適うまい。晴れていれば此方の輝きが上だったのか。否、多分、我々以外に近隣に居る人の行いが原因ではなかろうか、と其れは其れは他人に責任を擦り付けなければ理解し難いほど、アヤメ平のインパクトは裸山の陰に潜むしかなかった。
帰路は裸山を巻き、往路を戻る。ドラえもんの四次元ポケットから如く、人が溢れ来る。もう少し早い時間帯に来た方が良いよ。早起きは32文の得だよ。心なしか菖蒲の森には霧が降り切ったままである。今から菖蒲を目指す者が哀れでならない。
駐車場に戻ると、恐るべし数の車が犇いていた。早起きは自分のためだ。そして狭い林道を未だ未だ登ってくる面々。しかも道を譲っても挨拶すらない。世知辛い世の中だ。せいぜ霧の中の菖蒲で我慢し給え。気を取り直して温泉を目指す。赤石温泉とはきっと秘湯を守る会会員宿だろうと、長い林道を抜け切っては再び狭い道を選択した。鉄分を仰山含んだ露天の湯は短いながらも汗に抱いた山疲れを癒すには最適温であった。看板は謳っていた。虫もゴミもお湯に浸かりたいのだ。もし気になるようなら掬ってくれ、と。網籠が3個ばかり湯船至近に転がっていた。虫も赤石温泉に浸かれば鉄分たっぷりだ。だからどうしたのだ。南アルプスの前衛に、赤石温泉は、其の名に違わぬ赤湯で皆の到来を待っていた。
さて、昼飯はどうするか。空腹を抱えた面々は、甲斐風に靡く麦茶旗に誘われながら、閑古鳥の鳴くみさき耕舎の暖簾を潜る。明るい耕舎内で気を良くし、思い思いの蕎麦を注文する。瞬く間に我々が客を呼んだのか、耕舎内のテーブルは何時の間にか埋まってしまった。近辺には宇宙人の渡来が確認されていると言う。否、客のように見える彼等は皆宇宙人だったのかも知れない。宇宙人によって観光開拓を模索しているのか。宇宙人が飛来しなくなったらどうするのか。もっと売れるねたはないのか。食える物は沢山あると思うがどうだろうか。宇宙人より蕎麦だと思うが。地球の素晴らしさを今一度噛み締める必要があるのではないか。
下界へ降り、更に高速のインター近く迄戻る。目聡く発見した中道農産物直売所である。自分で誘導したにも拘らず、何か外野の気分であった。何か忘れていた。何か。そう、此処でモノを買って埋められるような気持ちではなかった筈だ。葱味噌とキウイジャムはどうだろうか。モモジャムがキウイの7割も高いのは何故か。喜ばれるのだろうか。素朴な苺ソフトクリームは300円で、キウイジャムより高価であった。夏の日。懐かしい苺の素朴な味。中道。
甲府南ICから暫し気絶の後、気付いたら談合坂SA寸前であった。往路の八王子IC発と帰路相模湖IC着で500円も違うのか。何故今迄気付かなかったのか。小仏トンネルは斯くも高きか。神奈川県は広い。R412の渋滞と500円+八王子バイパス250円の何れを選択するか。我々の選択は勿論晩飯であった。淵野辺では良く飲んだ。嗚呼、飲んだ。

(完)

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付録:

山旅アドバイス
・池ノ茶屋林道は非舗装。運転の下手なドライバーが多い。
・赤石温泉の露天は混浴。内湯は男女別。
・赤石温泉では蕎麦くらいは食べさせて貰える模様。
缶麦茶の自販機あり。