馬肉は、今

不定期連載 山道をゆく 第194話
07/07/28
摩利支天岳(庵線千名山399)
乗鞍岳(日本百名山、信州百名山、庵線千名山400)
【馬肉は、今】

7/29(土)
庵庵−中原街道−R16−八王子バイパス−八王子IC−釈迦堂PA
−松本IC−R158−乗鞍エコーライン−観光センター駐車場
=乗鞍畳平…摩利支天岳…肩の小屋…剣ヶ峰…肩の小屋
…肩の小屋口…位ヶ原山荘…冷泉小屋…鈴蘭…駐車場
…湯けむり館…駐車場−乗鞍エコーライン−ふきのとう
−R158−道の駅 風穴の里−県道48号−塩尻北IC−境川PA
−八王子IC−八王子バイパス−R16−中原街道−庵庵

…:歩き、−:車、=:バス

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昨年中に此方を訪れる計画を立てていた時点では仮題を「入浴剤は、今」と設定していた。皆様は覚えておいでであろう。2004年6月頃の話だ。白骨温泉を皮切りに全国区事件へと発展したアレである。不当に解雇された者の逆恨みか、或いは良心の呵責がチョチョ切れてしまった者による暴露か。然し、この事件の記憶も諸貴兄の記憶の片隅に追いやられてしまっている昨今である。
乗鞍岳攻めである。未踏の百名山である。日本国内3000m級峰制覇まであと2山である。そして、知人から伝え聞いた喫茶ふきのとうの馬肉ステーキ。白濁の湯を堪能することなぞ、アクションアイテムの末端にしかなかったのが現実だ。5年前、あれは下界では冬の到来を告げる兆しの微塵さもない頃、10月は末に積雪通行止めによる退却を余儀なくされたあの行脚の仕切り直しであった。
日付変更線を越える前に自宅を発つ勢いでアラームをセットしたのだが、何故か予想外の土曜日午前1時半に目覚めた。乗鞍を諦めるには早過ぎる。急いで支度をして庵庵を出た。ESSOで満タン給油すれば、次回、リッター当たり2円引きのバーコードーがレシートに印刷されていた。今日乗鞍から戻って来たら再び給油すればよかろう。原油は昇る。何処まで昇るのか。
さて、何時もと異なり、県道を下長津田まで出てR246を利用した。勝手が違う。思った以上に交通量は多い。序盤から調子が狂う。次回は辞めよう。大人しくR16を北上し、八王子バイパスも猛進し、中央道の人となった。圏央道へのジャンクションも開通していた。だが、果たして次回関越道方面行きの折に利用するか、考え物である。道が空いているには異論はなかろう。然し、北東を目指すのに一旦10kmも西へ進んむ必要があり、料金も嵩むのだ。入間IC乗りとではETC深夜割引が効いても900円の差だ。エコロジーとは言えない。この圏央道建設費をR16の小荷田から武蔵野橋南までの拡幅工事に充当してくれたら、如何にメリットが大きかったか。トラック通過もスムーズになり、排出ガスも存分減らせたであろう。
さて、中央道の人となるのも11ヶ月振りである。事故を起こさないよう気をつけねばなるまい。とは言え、予定より凡そ2時間の遅れである。途中休憩は駐車場内移動等の時間節約のため、SAでなくPAを選択した。
明るみを増す松本ICを降り、R158へ向かう。野麦街道は往来も少なくはない。大型トラックに加え、昼間になれば観光バスの擦れ違いによって渋滞も侭ならない。高速道路までは如何なものかとは思うが、拡幅して渋滞を減らしてCO2排出量を削減する方向に持ってはいけないものか。
奈川渡ダムを越え、梓湖を左手に進み、前川渡隧道を抜けて左折し、乗鞍エコーラインを進む。当初、三本滝からバスを利用しない登下山を目論んでいたが、最早、乗鞍高原始発バス乗車に適当な時間帯となっていた。人は易きに流れてしまう。粗3ヶ月登ってないのだ。リハビリだ。今日は楽をさせて貰うか。観光センター脇の駐車場は1割方埋まっていると言える状況だろうか、巷間は夏休み、今日は老若男女がバス停の後方を彩っていた。観光センターの切符売り場は早朝につき未だ営業しておらず、売店のおばちゃんが、乗車券はバス内でも買えるとのことで安心してバス停に引き返した。それにしても、重装備に見える人が多いな、、、スキーをする方は兎も角として、最低2泊クラスの荷物は運べそうなザックを背負った方が多いのだ。乗鞍から何処に縦走できると言うのだろう、、、肩の小屋泊?だったら始発バスで上るには早過ぎるだろうし、、、ストックを持つ人も多い、、、ストックが必要な程険しい山塊とは思えないのだが、、、アントニオは乗鞍岳素人なのでこれ以上の疑心は抱くまいと、昨晩スーパーで仕入れたおにぎりを泰然と頬張りながら自若としてバスを待った。
始発バスが到着した。運賃箱は運ちゃんの帽子で覆われており、下車時に運賃を払えばいいのだなと解釈して空いている席に座った。途中、幾つかのバス停にも寄るのだが、山頂まで片道運賃1100円なのに対し、中腹にも満たない三本滝入口までで850円とは暴利だぞ、松本電鉄バスめ。位ヶ原山荘前より上は1100円均一である。ううむ、途中で下車するのは勿体無い魂が沸き起こってしまうではないか。。。肩の小屋口ではスキーを画策している数グループが下車した。確かに夏本番のこの時期まで滑れる場所は中々探すのが困難だろうが、リフトもなく、ゲレンデらしいエリアも狭そうで、私のする趣味ではないと改めて感じた。夏スキーを楽しむ人の権利は認める。だが私はやらない。これが民主主義というものだ。

さて、山頂に近づくに連れ、雲行きが怪しくなって来た。3ヶ月山を離れていた罰かも知れぬ。山頂天気機会均等法通りと言えばその言葉に片付けられても控訴を断念するしかない。山頂にはバスの残りの乗客全員が放出されて散らばって行った。自分も路頭に迷っているのだが、果たして彼等はどうするのか?晴れていれば当然魔王岳、大黒岳、富士見岳に予定通り寄ろうものの、この雲の重さ、その数山をクリアした後に剣ヶ峰にて払拭できるとは到底感じられなかったため、止む無く最高峰直登を決めた。
数グループを追い抜きながらも、白煙の中、ひょっとしたらとの微塵の期待から、摩利支天岳方面に寄って時間を稼ごうと企んだ。不消ヶ池と書いてきえずがいけと読ませるこの池の縁にも残雪はあるが、僕が期待していたのは白い雪ではなく青い空である。摩利支天岳山頂に立ち入ることはできない。此処にはコロナ観測所が頓挫している。この空模様ではコロナ観測どころではない。

本線に戻り、東側山麓方面を見遣れば晴れ間も若干覗くのだが、その晴れ間が標高3000mを越える勇気が今日は足りなかったようである。肩の小屋には生ビールのサービスがあれど、この寒さである。7月下旬に、雨さえ降らなければそのお世話になることもあるまいとは思っていたが、もしもと思って持参したゴアテックスのレインウェアが防寒着としてその威力を如何なく発揮したのには泡を食ったくらいで、麦茶指数はマイナス、小屋に用事の思い当たらぬまま、先へ進んだ。
畳平或いは肩の小屋口から約1時間半で到達可能な山頂に、スニーカーやショルダーバッグと言う軽装者から、先程述べた重装備な方まで、まぁ、色とりどりであった。リハビリとは言え、苦しむことなく真っ白けな山頂に辿り着いた。悔しいので山頂で暫く佇むも、一瞬二瞬と日の強い光を感じるものの、天空の白さに青い刻みすら確認することは、30分と言う短い間では成し得なかった。まぁ、前回のGWの節刀ヶ岳は晴れてた。そしてその次の此処はダメだった。それだけさ。バス便もあれば次回も楽チンさ。時間さえあれば2本脚で登るのだけどね、、、
肩の小屋に戻り、一応小屋内で進退を決め兼ねている内に売店のお姉ちゃんと目が合ってしまう。アントニオの体たらくからしてビールでも飲んでくれたらとの視線を投げ続けていたのかも知れず、否、アントニオの方こそ、左程指数は昂らないけど、往生際を決めて生でもやろうかな、どうしようかな、声掛けられたら考えないこともないのだがな、とのオーラを発揮し続けていたのだろう、時刻にして若干午前9時丁度、視線とオーラが和解に達した。
生を嗜んだ後、ゲレンデの脇を下る。ほんの少し雪を踏まざるを得なかったが概してアイゼン等は不要なルートで安心した。スキーヤーの数は2,3人程度では済まなかった。そんなに楽しいものだろうか、、、

さて、肩の小屋口に戻り、エコーラインを横切って確認した下山道初っ端の警告板には、本下山道から三本滝駐車場への僅かなショートカット経路が災害のため通行止めと記載されていた。アントニオは目覚まし時計の通りに目覚めていたら、其処の駐車場からその通行止めルートを利用しようと画策していたのである。午前3時か4時頃の時点で通行止め看板を目の当たりにした場合、果たしてアントニオはルート変更に決断できたであろうか。車の移動も20分以上はかかるであろう。鈴蘭周辺から上り下りでコースタイムは約2時間も延びてしまうのだ。将に運命である。上り時間が増えながらこの山頂のガスッぷりではアントニオも暴動を起こしていたに相違ない。

然しながら、久々の下り道である。そして、車道の両縁を、目を凝らしながら歩かないと登山道を見損ね兼ねないのだ。自動車道が九十九折の場合、歩道より車道の方が遥かに遠回りであるケースを、石鎚山から風雨の止まぬ中、瓶が森から寒風山を目指した時の苦悩に蘇らせていた。肩の小屋口周辺は晴れ間が広がっていたと思いきや、位ヶ原山荘付近に至っては小雨も降り始めてしまった。更にはアントニオの山荘到着を狙ってか、老々男女の集団が襲来して山荘の平穏も破壊されてしまった。止む無く休憩無しに下りを続けた。缶ビール5缶分の値段で6缶飲める回数券があったようだ。今1本飲んで、後5回此処を訪れねばならないのか。。。それはご苦労さんなこったい、、、其処から数十分下った冷泉小屋は廃墟と化して久しいようだ。雨も上がり、明日の筋肉痛は免れないとは知りがらも小走りで下った。やがて雨も上がった鈴蘭の地にソフトランディングした。つもりだ。

冷泉小屋がお役御免となったのは理解できる。でも、肩の小屋や位ヶ原山荘がまだ健在なのは、スキーヤーのお陰なのだろうか。リフトもない。ゴンドラもない。ゲレンデなきゲレンデを滑る道具は持ち合わせていながらその術を持たず、アントニオがこの両小屋のお世話になる機会が訪れるのかは神のみぞ知る。
畳平から歩き続けて4時間半、適度に汗も掻き、免れないであろうが保険の積もりで脚をマッサージしたく、他に選択肢を一切考えていなかったため湯けむり館の暖簾を素直に潜ることにした。
入浴剤は今。湯船の内側には硫黄がこびり付いている。硫黄泉には異論の余地はないと思うのだが、今、目の前にある白濁の原因としては弱過ぎたのか。入浴剤の混ざった晩年は現在より激しく濃い白であったのか。今回、生まれて初めて乗鞍高原を訪れ、初めての入湯である。存分白いではないか。湯けむり館が入浴剤に手を染めていたかどうかは思い出せない。然し、入浴剤なら家の風呂でやるべきだ。湯けむり館、天晴れ。
すっかり観光地らしい数の観光客を擁した観光センターに戻る。お土産を物色しようも、アントニオの購買意欲をそそるような、もう、何処彼処にも見当たらないような素晴らしい逸品を発見することはなかった。いっそ、開き直り、気分を変えて俗化し、ジャイアントポッキーの長野バージョンなんてのも少々琴線に触れかかったが、頑ななアントニオ魂が認可するには未だ時間が足りなかった。結局身軽なまま、車に戻り、エコーラインを東へ戻るとした。
往路上できっちり場所を確認しておいたふきのとうである。昼時、駐車スペースには若干1台分しか空きがなかった。店内も粗テーブルが埋まっていた。ケーキでも有名らしいこの喫茶だが、紛う事無くさくら肉ステーキを選択させて貰った。店内に、さくら肉ステーキ以外をメインディッシュに選択している客が居たのが心外であった。もう、馬肉の顔も見たくない程この店を訪れているのか。はたまた時の運で偶々今回、この店を選択してしまったのか。店の大きさの割りに、さくら肉ステーキ以外の所謂「食事」メニューの種類が多かったのが意外である。メニューには野菜天丼と海老天丼の2つしか掲載されていないような集中振りを期待していたアントニオは梯子を外された思いだ。多分厨房を切り盛りしているのは1人のみであり、暫く馬肉の到来を待たねばならなかった。
果たして馬肉は柔らかく、舌は繁野を駆け巡った。然し、馬肉の柔らかさに舌が痺れている間も無く、店内で手にしたグルメマップパンフレットを眺めて愕然とした。
界隈におやきが4種類もある。
その写真を凝視すると、生地自体は2種類であろう。同じ小麦粉ベースでも隠し味ドロンパ攻撃が潜んでいる可能性もあるが、そば粉ベースのいがやおやきは秀逸と見えた。ただ、我がおやき戦国時代は10年以上も前の話だ。既におやき終戦を迎えて久しい。1日12個、兎に角おやきだけ食って過ごせた時代が懐かしい。非おやき三原則の法制化は未だに求められてはいないものの、今や、食べ過ぎと健康、コストパフォーマンスなどを総合して、第2次おやき長野大戦に突入できるだけの体力は残念ながら持ち合わせてはいなかった。この中で1品のみ選ぶとすれば、地元の漬物、稲核菜と記して「いなこきな」と読ませる具材を使った稲核おやきであろうか。ふきのとうからまた更に東へ戻って道の駅に寄ることにした。元来道の駅の喧騒は敬遠の対象だった。そこの土産物は地元スーパー等より値段が高いのもマイナス要因であった。このような理由がありながらも、稲核菜は炎天下の安曇野でアントニオを呼んでいたのである。おやきは冷凍物を纏めて購入し、自宅で嗜もうと試みたが、纏め買いの方が1個当たりの単価が高いと言う不可解な現象に1人憤慨し、結局蒸かし立てのを1個と稲核菜漬物1袋とを所望した。後々アントニオの弁当の炒め物を彩った稲核菜の面々である。喧騒の中で食べるおやきに、その魅力は半減し、稲核菜の真髄をその場で確認できぬまま、道の駅を去ることとなった。
さて、帰路は日中、ETC夜間割引も効かなければ、せこいアントニオは高速乗車を1区間だけでもケチる習性を沈静できず、県道等を走り回ったのだが、安全運転なトラックやジモティの車に行く手を幾度も遮られ、嗚呼、このロスタイムを考えれば時は金なり、素直に松本ICを目指すべきだったと後悔した。塩尻北ICから高速に乗った時間帯も早く、小仏トンネル周辺の渋滞は蚊の鳴く程度で済んだ。その分、R16の慢性渋滞には辟易させられたが、まぁ、3ヶ月振り、無事に帰れただけでもヨシとすべきだろう。

(完)

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付録:
山旅アドバイス
・湯けむり館は2年間に5回入れば6回目無料。