頑張らなくて良い

不定期連載 山道をゆく 第208話
08/10/19~
ワルサ峰(庵選千名山434)、佐武流山(日本二百名山、信州百名山、庵選千名山435)、
田代山(庵選千名山436)、帝釈山(日本二百名山、庵選千名山437)
【頑張らなくて良い】

10/19(日)
庵庵−中原街道−R16−八王子バイパス−入間IC−圏央道−関越自動車道
−土樽PA−湯沢IC−R17−出光スタンド−石打観光口−R353−山崎−R117
−大割野−R405−佐武流登山届け口…佐武流近道…林道…桧俣川徒渉点
…物思平…ワルサ峰…西赤沢源頭…坊主平…佐武流山…西赤沢源頭
…ワルサ峰…林道…登山届け口−R405−雄川閣−R405−大割野−R117
−北原−R252−役場前−R17−井口新田−R352−奥只見シルバーライン
−R352−小白沢ヒュッテ

10/20(月)
小白沢ヒュッテ−R352(沼田街道)−桧枝岐−内川−松戸原−県道350号線
−田代山林道−猿倉駐車場(トイレ側)…猿倉登山口…小田代…弘法沼
…田代山…弘法大師堂…帝釈山…弘法大師堂…小田代…猿倉駐車場
−田代山林道−県道249号線(黒部西川線)−県道23号線(川俣温泉川治線)
−R121(会津西街道/大桑バイパス)−今市IC−日光宇都宮道路−宇都宮IC
−東北自動車道−大谷PA−川口JCT−首都高S1−首都高C2−首都高5号線
−首都高C1−首都高3号線−用賀IC−環状8号−玉川IC−第三京浜−港北IC
−産業道路−出崎橋−鴨池大橋−Esso(…ヤマダ電機)−庵庵

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2000m級の山を目指せるのは今シーズン最後であろうか。空木南駒越百の3山セットを虎視眈々と狙っていたのだが、長野県の天気予報は芳しくなかったのが残念である。しかし、先週末のリベンジなり、夏奥只見のリベンジなり、新潟や福島方面の天候は申し分なさそうであった。
土曜日はノンビリと部屋掃除や食料品買出しに明け暮れた。ノンビリした。先週の反省を踏まえ?、酒量も減らして仮眠を摂った。
今回も高速を降りてからが長い道程であった。湯沢から十日町市に入り、そして津南町へと南下し、R405に折れた。以前、ザビー氏と此方側から苗場を目指した時より道の細さを痛感した。当時は氏に運転させっ放しであったからかも知れない。今更ながら苦労をかけてしまったなぁ。R405の道の奥は長野県であった。確かに新潟県の隣に長野県は存するが、関越自動車道から長野県に入るまで計算が至らなかった。そうだ、先週未遂の白砂山も長野県栄村との県境に位置していた筈だ。志賀方面に抜けられると思えば奥と言うのは微妙ではあるが、R405運転も飽きが来る頃、漸く佐武流山登山口を示す看板を発見した。未だ日の出まで程遠く、看板がはっきり読めなかったため、少々休部号を看板側に寄せた矢先だった。
脱輪。
駆動輪1つが側溝にすっぽり!2日間の旅のゲームオーバーが脳裏を過ぎった。やばいが慌ててはいけない。本当のゲームオーバーを迎えてしまうのだ。アントニオは車を止め、どのようにコントロールすれば脱出可能かを確認してから、ハンドルを握った。慎重に慎重を重ね、バックした。見事脱出。間一髪セーフ。丑満つ時、道の奥にJAFなどの救援を呼ぼうが数時間の往生は免れなかっただろう。当日夕方、奥只見シルバーラインのトンネル内の側溝に前後両輪を見事に収めてしまって銀山平迄の道志半ばで往生した車を発見した時は脱輪から復活した自分の運の良さに涙さえ浮かんだ。登山届けポスト付近に数台の駐車車両を確認した。しかも佐武流近道の看板もある。迷ったが少し先のゲートまで車を進めた。ゲート付近は残念ながら路肩も殆どない。已む無く先程のポスト付近に戻り、路肩に居場所を見つけた。4時台の栄村深南部、、、南部と言えば白砂山の方が南だが、車で到達可能な深南部と言えるだろう、この地に来光の兆しはなかった。
5:05登山口を発つ。寒く、未だ闇夜の出発点にて少々怯んだが、折角ヘッドライトを持参しているのだ。10時間コースである。5時に出て早過ぎることはない。アントニオが発った頃、後方でガサガサと音がした。5台程先着車両があったが、未だ発っていないパーティーが居たのだろうか。数時間後、勿体無さを彼等は噛み締めることだろう。ヘッドライト利用の登山も久しかった。長丁場だから、序盤で怪我を負うことだけは避けたいため、普段より遅いペースで駒を進めた。地盤の良い林道を進むも、このコースは徒渉点まで一旦下らねばならぬと思うと先が思い遣られたものであった。徐々に日が昇って辺りが明るみを増し、紅葉を味わいながら進む。林道から逸れて徒渉点への下りも湿って滑り易い上に狭く、ペースが狂ってしまった。

雨後は渡れない可能性を鑑みて晴天日の翌日に此処を通過しようと、目算通りに事は進んだが、徒渉後も中々進み難さは否めないルートであった。狭い、落ち葉で滑り易い、踏まれていないから均されていない、、、歯応えは十分だ。10月中旬と言う絶好の紅葉登山日和に、中々味わえない静寂だ。徒渉点までの抑速リミッターを解除し、キラーアントニオはずんずんと標高を上げて行った。幹間の南方向に時折姿を見せるあの尖がった山、何処かで見覚えがあるな、少々遠方だな、あそこまでは今から登りたくはないな、、、そう思っていた。幾度と無くその富士山型山容を見るに連れ、佐武流山が200名山にカウントされた理由を悟った次第である。森林限界近くに達したか、桧俣川徒渉点からワルサ峰まで1時間15分で到達した。区間新記録であろう。記録は破られるために存在した。

区間新記録のアントニオが誰も追い抜けないともなると、勇敢な山中前泊者でなければ山頂まで先行する事は有り得ないであろう。進め、アントニオ。あの雄姿の頂へ。進めーーー

9時丁度、山頂に到達した。苗場、仙ノ倉、谷川、至仏、燧、巻機、越後駒、平ヶ岳、、、奥深過ぎて溜息が出てしまう。確かに前進し難い箇所は枚挙に暇がなかったが、この道を乗り越えた充実感は計り知れない。前進倶楽部、天晴れ。

今日も一番乗りである。静けさは存分いただいた。風の音が響くのみ。もう終わっても良いと思った。何が?知人の死が何か言っていたのかも知れない。頑張らなくて良い。一所懸命生きてきた人の言葉だ。俺には未だ頑張れる何かがある。中途半端は良くない。平らな山頂の苗場が眼前に広がる。ただ感動であった。苗場は麓側の方が色合いとしては鮮やかであったが、今日は整備されたグリーンの様なエントロピーのより少ない苗場山頂に自然美を感ぜずには居られなかった。紅黄より青緑か。最も、前進倶楽部さんの頑張りあれど、この季節は急斜面上の木々や岩々の上を容赦なく落ち葉が覆い、下山時は特に足元が常に心配で紅葉を嘆賞するどころではなかったのだが。

徒渉点から少し登り返し、林道に戻った頃には日も高く、日焼けは免れない陽気に包まれていた。十分、やった。思い残すことはない、と言っていいだろうか。林道は長かった。涼風が吹き抜けて行く。静かな林道である。10月中旬のゴールデン紅葉登山日和にも拘らず。


登山口に戻り、車で数分と思しき切明温泉、雄川閣を目指した。意外と車でも時間が掛かり、道の奥らしくなく車も多い。開けて見ればバスも数台往来して駐車場は満杯、ガイドブックの入浴料300円に対し温泉内張り紙は500円とある。佐武流登山満了の思いに耽られる余裕もない。風情もない。興醒めして温泉に浸からぬまま駐車場を発つ事にした。
交通量は確かに紅葉シーズンを示して止まなかった。当然か。しかし、アントニオには佐武流登山の思いに浸る静寂な湯が欲しかった。R405の交通量は多い。沿道には他にも温泉は存在したが、興醒めに醒め掘りし、結局R405沿いの温泉は諦めた。これならヒュッテの、小白沢の湧き水風呂の方が数段良かろう。小学生時代の社会科教科書に登場した十日町市を運転するのは生まれて初めてになろうか。ごく普通の市街地に感じた。本領を発揮するのは数ヶ月後だろうか。温泉欲も食欲も左程ないまま、ヒュッテへ急ぐ。R117は地域の動脈のようで適度な交通量であり、R252に逸れてからはビュンビュン飛ばすことができた。R17を少々南へ戻り、シルバーラインを目指す。間一髪で越後交通バスの回送車に先を越されてしまった。何が悔しいかと言えば、シルバーラインのトンネル内で窓を開けることができないからである。回送であるから、と言ってもシルバーライン内にバス停は皆無だが、大型観光バスとの擦れ違いの度に停止を余儀なくされた。休日日中にシルバーラインを運転するのは経験もなかったため、少々面を喰らった。極め付けは、銀山平へ出る交差点の間際あと数百メートルと言ったところだろうか、トンネル左側の側溝に前後輪ともに「ホールインワン」してしまった車が確認された。邪魔だ。運転の未熟さを憂え給え。しかし、哀れみさえ感じた。合掌。
銀山平の先は先行するバスも当然なかったのだが、紅葉シーズンのサンデードライバー等が対向車の存在を予期せぬ運転が目立ち、腹立たしかった。こちらが何度避けてやらねばならなかったか。神経繊細なアントニオのお陰で事故が防がれていることを痛感しろ。多分、温泉にも入れず、昼飯も特に口にせず、イライラが募り易い状況であったことは否めないのだが。
ヒュッテに到着したのは16時過ぎだろうか。少々遅い到着とも言える。しかし、今日はとても充実していた。夏に来た時は絶不調で何もできずに来た事を思えば、今日は登山もして無事にヒュッテに辿り着けた事を万物に感謝しなければならないかも知れない。翌日お子さんが休校日?らしいファミリー以外に客は居なかった。だが、吉田屋のりえちゃんが今日も客応対をしてくれていた。ヒュッテの風呂で汗を流し、時刻も時刻だっただけに、今日は麦欲全快だ、CHIMAY白ラベルの大瓶を風呂後の一杯として頂いた。ンまい。ヒュッテの静寂さ、空気の中で頂く杯は、横浜のそれとは雲泥の差であった。前回の夜食とは少々違いメニューも卓を彩り、ヒュッテの夜の食卓は今日も華が咲いた。そして、体調万全なアントニオは、その華を一つ残らず平らげた。食事は残さず食べることが調理者への感謝である。体調万全とは幸せなことである。CHIMAYを空けた後、チェリービールも嗜めた。体調万全、いいなぁ。
夜が明けた。帝釈山に行きたいと思っていた。ヒュッテの櫻井さんに早朝の朝食準備を無理強いしたくはなかったので、宿を発つ支度を済ませてから朝食の時間を迎えた。今日も好天である。登山日和だ。ワッハッハ!代休取得した甲斐があるというものだ。今年最後であろう、小白沢ヒュッテを堪能することができた。良かった。来年もまた来よう。
沿道の山面は至る所、紅葉である。月曜日で交通量も少なく、浸るには良い環境であった。沿道を観賞し続けた結論として、R352の紅葉が一番の絶品であること認識した。鷹ノ巣から県境を経て、御池に至る辺りが「染まる」に相応しい様相を呈していた。ガタゴト田代山林道沿いから撮影している方々も何組か発見したが、ガタゴトを我慢しなくてもよかったと思うのだが。昨日も一日数本の只見線列車に遭遇し、今日もシーズンでさえ一日3便の奥只見湖遊覧船からの連絡バスとも擦れ違い、ツイているように感じた。林道のガタゴトは休部号には辛いかもしれない。かと言って、年中オフロードを運転することもない。その気になれば車中泊も難しくはない。休部号、今日は辛いが頑張ってくれ。
国道は飛ばしに飛ばしたがその後の林道はのらりくらりだったため、登山口に到着したのは9時半過ぎであった。そして、9:40に登山口を発った。車を置いた地点から少々先にも車を置けるスペースがあり、2台の先客が居た。面倒なので車はそのままにし、登山を開始した。田代山は登りに関しては初心者向きと想像し、もう少し平坦な道程を期待していたが、思ったより歯応えを感じたのは、昨日の佐武流疲労をドーピングで克服できなかったためであろう。しかし、好天だ。光合成でエネルギーは今日も全開、ブルドーザーが如くアントニオは突進した。


干上がり気味で少々艶消しだが、開けた湿原地帯に入り、田代山山頂に到着したのは10:37であった。今日の区間新記録も想像に難く無い。だだっ広い、水分と花分を失った湿原だ。四季のある自然とはこんなものだ。今は華やかさは要らない。自然美があればいい。

さて、桧枝岐からコースタイムにして1時間以内で帝釈山を目指せる 川俣桧枝岐林道の存在を後々知って落胆してしまったが、快速アントニオは高速運転を続け、木枝を跨ぎ、乗り越え、11:22に帝釈山山頂に到着した。田代山からの走行についても区間新更新であろう。会津駒、越後駒、燧、平ヶ岳、巻機、至仏、武尊、奥白根、女峰あたりが眼前に広がっていると思われる。山頂には百名山を制覇した後、二百名山巡回に入ったオバサンが、やれ誰もいなけりゃ写真撮ってくれる人も居なかったなどと、恐らく此処まで黙り溜まっていたのが噴出すかの如く、言葉の洪水となった。なしのお裾分けをいただいたので無碍に疎む訳にもいかなかったが、確かに静寂な山であった。静寂に、秋の空高し。


昨日ドーピングしていなかったにも拘らず、何が自分を駆り立てるのか不明ではあったが、帰路も快速運転が続いた。田代山の湿原からの下りに至っては、特急運転と呼んで過言ではなかった。登山口から1.5km程をキロ14分ペースで下った。時速4km少々であるから平地であればただの歩きである。アントニオは忍者或いは飛脚を気取っていた。
登山口からは田代山林道をそのまま栃木方面に下る事にした。7年前発行のガイドブックには悪路と注意書きがあったが、湯ノ花温泉側に戻るのは遠回りでエコロジーではないと判断した。悪路には相違なかったが、湯ノ花温泉側のそれと大差は感じなかった。その悪路途上に幾重の紅葉撮影者が居た。此処よりR352沿道沿いの方が上なのだ。悪路を遥遥ご苦労なことである。林道、県道、国道を跨いで休部号を南へと走らせた。思えば、長野県、福島県の山に登りながら双県にビタ1円たりとも銭を落としていかなかった。不況だ。止むを得まい。5年前の太郎山行脚の時はETCもなく割高だった日光宇都宮道路も値下げとETC利用可能になって快適であった。そう、前回の小白沢ヒュッテからの帰りの日に事故で暫く通行のできなかった首都高5号線なども特に大きな渋滞もなく、無事に帰庵できたのが何よりであった。明日から仕事だ。がんばろう。
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付録:
山旅アドバイス
・佐武流山登山道は全体的に滑り易いか進み難い。
・佐武流山は中津川ゲート前付近は駐車スペースが乏しい。
登山届け口付近は十台程度は路肩に駐車可能と思われる。
しかし、歩くのは登山届け口からの近道よりゲートから
林道を歩いた方が楽のような気がするのだが、、、
いずれの箇所もトイレなし。
・田代山林道は概ね悪路。