容疑者

不定期連載 山道をゆく 第193話
07/05/03
雪頭ヶ岳(庵線千名山394)
鬼ヶ岳(庵線千名山395)
金山(庵線千名山396)
節刀ヶ岳(山梨百名山、庵線千名山397)
【容疑者】

5/03(木・祝)
庵庵−中原街道−保土ヶ谷バイパス−横浜町田IC−御殿場IC
−R138−県道710号−県道21号(湖北ビューライン)
−魚眠荘前駐車場…雪頭ヶ岳…鬼ヶ岳…金山…節刀ヶ岳…金山
…鬼ヶ岳…鍵掛峠…駐車場−県道21号−県道710号−R138
−県道150号−R246−大井松田IC−中井PA(通過だけ)−町田IC
−環状4号−庵庵

…:歩き、−:車

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斜面を転がる石は、一体・・・

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黄金週間酣である。例年、計画が縮小している。その気になれば有給休暇を駆使することは吝かではないのだが、山より大事な何かを見出さんとスケジュールは白紙にしておいた。また、後半には、ネパールソンギートに親しむ会の会計監査業務も執り行われる予定だ。会員としては弱冠ながらも会計監査と相成ってしまったアントニオは、その会の年に一度の大仕事をサボる訳にも行くまいと感じた。これもスケジュール白紙の第2要因であった。
前半戦。前半戦開始前夜のイベント次第で人生は好転すると思っていた。意気込んでいた。果たして、人生は進んだのか。止まるか急激に進むかの答えを予想していたところ、50点の回答を入手し、面を食らう。人生、0点や100点だけではない。ただ、0点の方がまだ気分に踏ん切りが就くように感じた。貰ってしまった50点に飲んだくれてしまう前半戦だった。消化試合のような営業日が2日続く。気分を変えよう。然し4日は午前中から会計監査だ。何処でも良い。日帰りでも良いから、家を離れよう。遠征すべきだ。従来のように遠大に計画を練ることはなかったが、メモ程度の山行プランから近場をピックアップし、丑三つ時の庵庵を発つことにした。
高速道を利用するのも、もう昨年の8月以来である。山男アントニオの行動も変わり果ててしまったのか。ETCの深夜割引を狙っていたのだが、半額キャンペーンのような垂れ幕に思わずほくそ笑んでしまう。御殿場ICまでもあっと言う間であった。R246を横切り、R138を登る。登山口到着が早過ぎるだろうと読んで東部富士五湖道路は敬遠し、ノンビリと山中湖へ向かう。早朝で交通量も少ないため、山中湖のインターチェンジも無視して下道を進む。沿道の気温表示は一桁台である。低温如きにアントニオの行方を阻むことは不可能である。太陽エネルギーが迎えてくれる筈だ。道の駅でトイレに寄り、王岳行脚を思い出しながら西湖北岸道路を進み、魚眠荘前の公共駐車場に車を停め、今年初めてと言うべき山に心躍らせた。
ひんやりとした空気。摂氏4℃程度だろうか。覆うフィットンチッド。足並みは軽い。戻るべき地点に戻って来たと言うべきか。深夜ドライブに激早朝からの登山開始ですっかり往年の勘を取り戻したアントニオは、ブルドーザーの如く山道を行った。黄金週間後半初日、誰も日帰り登山なぞしまい。今日は雪頭ヶ岳に節刀ヶ岳は独占だ、そう意気込んでいた。前半の歯切れの悪い文体は、山岳男の曲がり角であろうか。然し、既に50点のことなぞ、空の青さと八の白さの前に忘れていた。

西湖の釣り人を望む雪頭ヶ岳。若干、6時半。そう、これを眺めに来たのだ。さぁ、釣り人よ、思う存分釣り糸を垂れよ。我は孤空を行かせて貰うぞ。

鬼ヶ岳の角もご愛嬌だ。河口湖も覗く。ラジオ体操を終えて家路に着くか否かの未だ7時前である。山っていいな。

ブナの幹間に河口湖を覗きながら本日2つめのセットウガタケに到着したのも未だ7時半前だ。俺の山だ。文句があるなら俺より先に来いってんだ。矢張り、独占欲は健在だ。精神貧乏症と言えなくもない。貧乏を克服するには幾許かの体力と気力が必要である。富士は雲居なれど、箱根、三つ峠、道志山塊、身延、大菩薩、奥秩父の山並みが囲む、囲む、、、平和な黄金週間である。

鬼ヶ岳まで戻り、更に西へ向かう。所々切り立ってスリルも溢れ、正面には八や蓼科の雄姿に胸もサンバに踊るしかない。漸く本日1人目の人と擦れ違い、独占状態を失ったが早起きは32文の得であった。俺の山だ、山だ。
鍵掛峠まで少々冒険心を燻られるルートを堪能し、王岳登山時に利用した登山ルートを下ることにした。概して緩やかである。足取りは頗る軽い。そして、数ヶ月振りの山行に調子を扱いていたのだろう。その足取りによって何かが失われることを、アントニオは気付きもしなかったのである。
本当に、足取りは軽かったのである。そして、その、軽過ぎて、災害が発生するとは、、、自分が通り過ぎてからどれくらいの時間が経過したであろう。自分とは随分離れた位置で落石が発生した。元凶は自分なのか否か。他に下る者もいないし。折りしも、下を見遣ればグループが登らんとしているではないか、、、
ここで叫べば犯人と思われるだろう。叫ばなくとも叫ばなかったことを非難されるだろう。悩んでいるうちに石は無情にも落ちてしまった。幸い、グループ内には有識者が居たため被害はなかったようである。常識的に行く手に注意の目を凝らしている人であれば被害はなかろうが、近隣のメンバーと喋りながら道の良し悪しも判定すらしない輩であれば被害は免れなかったかも知れぬ。
そのグループの最後尾の方が、「落としたなら叫んでください」と言った。当然故意ではない。また、自分が落としたかは不明だ。落としたことに対する犯人扱いは受領御免被るが、叫ばなかったことに対しては非難されても仕方ない。来るんではなかった。。。
大人しく、大人しく、大人しく西湖岸まで下山した。腑に落ちない。

避けられないこともある。何処かで気晴らし、気分転換でも、との思い付きも、新たな二次災害を懸念すると手が出せなかった。もう、これは真っ直ぐ帰るしかない。真っ直ぐ自宅へ向かった。さすがに何処の道も下り線は込んでいるが上りはスカスカであった。中井PAのとんかつに気分の回復を望もうとしたが、生憎工事中であった。台本通りだったのか。大人しく、大人しく、大人しく運転して午前中に帰宅してしまった。せざるを得なかった。

(完)

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付録:
山旅アドバイス
・駐車場にはトイレあり。
・鬼ヶ岳〜鍵掛峠の稜線は見晴らし良いが所々切り立っており、
歩行注意。
・鍵掛峠〜駐車場は、なだらか。下山に適。
・山道は歩こう。