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塩日帰り

不定期連載 山道をゆく 第180話
2005年夏特別企画 第3弾 塩見岳日帰り
05/08/27
本谷山(庵選千名山355)、
塩見岳(西峰)(日本百名山、信州百名山、庵選千名山356)、
塩見岳(東峰)(庵選千名山357)
【塩日帰り】

8/27(土)
庵庵−R16−八王子バイパス−八王子IC−駒ヶ岳SA−松川IC−県道59号
−県道22号−鳥倉林道−林道ゲート…豊口山コース登山口
…豊口山間のコル…三伏峠…本谷山…塩見小屋…塩見岳西峰
…塩見岳東峰…西峰…塩見小屋…本谷山…ゲート−鳥倉林道
−R152−南アルプスむら−さくらの湯−R152−R20−勝沼IC
−初狩PA−八王子IC−八王子バイパス−R16−西谷−庵庵

−:車、…:歩き・走り

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
14時間50分。以前、其の場の流れで14時間を越えるコースタイムのルートを手懸けたことは幾度かあった。何れも体力的に未だ余力を残していたための措置で、事前から超ロングコース敢行を決定していた訳ではなかった。今回はエスケープルートもなく、例え途中で骨折しようも14時間50分の道程を決意した。超霊長類アントニオとは言えども体力的な衰えはそろそろ心配する必要がある。やるならば3連休中日とか夏休みとか、前日にゆとりがあって尚且つ翌日が潰れても困らない日程で出来ればと考えていた。短いお盆休みに塩見との選択肢を何故か忘れてしまっていた。それから一週置いた週末、天気予報を見ると、大鹿村の土曜日は晴れマークしか記されていない。大鹿村が呼んでいる。前日には何とか20時前に仕事を終え、急いで帰宅、晩飯を食って寝る。日付変更線直前に目覚ましに起こされ、支度をして土曜日が始まったばかりの時刻に庵庵を発った。
気合諸共に中央道東線を駆け抜け、駒ヶ岳SAで最初で最後の休憩を摂る。松川インターを降り、片側1車線のまずまずの幅の道を東へ進む。闇夜だから其の全貌は崇められなかったが、小渋湖の脇を掠め、スキー場、ゴルフ場と信号機が一つもない大鹿村へ突入した。信じられない程高額な信号機を減らすことは、自治体にとっては少なからず経済効果を齎していると思われる。
「塩見岳という名は、おそらく山麓の名前と関係があるのだろう。鹿塩川沿いには、大塩、小塩、塩原などという部落があり、その中心地は鹿塩である。鹿塩から塩川に沿って少し上った所に塩湯という食塩鉱泉がある。その含有量は1リットル中に25グラム(海水は30グラム)わが国最高の僑食塩泉だそうである。昔はこの地方で食塩の製造が行われたというが、この奥深い山中で、海の塩より山の塩に頼ったのは、まるで日本のチベットのような土地である。
今は鹿塩地区だけだが、昔は広範囲に湧出したらしく、塩畑、塩川、満塩、孫塩、小塩、大塩、塩沢、など小字に塩の付くものが多い。」
と、朝日新聞社発行の週刊日本百名山に記述されていた。そんな塩を縫いながらチベットを目指して鳥倉林道を登る。舗装路なのが非常に有り難いのだが、今日の林道も長かった。
出発をもう少し早めれば良かったか、林道にやや明るみが感じられる時分となっていた。4時15分頃だろうか、ゲートが設けられており、此処で車は打ち止めとなった。眠気で虚ろながら休んでいる暇は無い。既に辺りは薄暗い。出来れば闇夜のうちに出発を試みたかったが止むを得まい。出発の準備をし、4時39分、チベットへの旅に出る。
実際、ゲートから先の林道歩きも並大抵の距離ではなかった。山肌を振り返れば駐車場の場所が目立つ。登山口から休部号に戻るにも30分は優に掛かってしまうだろう。気の遠くなる程距離を隔てて登山口は存在した。登山届けを認め、登り始める。数人が登山口で小休止なり準備運動をしていた。この登山口から登る者のうち、世界に3人以上は日帰りを目論む猛者が居る。此処に居る者も其の一角か。未だ此処から14時間半のロードなのである。

序盤の1時間程度は鬱蒼とした林の中の移動にウサギギクも萎れかかり、アントニオも原生の力を発揮出来ずにいた。塩日帰ラーが密かに集う豊口山コースに、マラニックさえアントニオを脅かしては追い抜いて行く。少々年配な夫婦だったが足取りは頗る軽快だった。鍛えれば全身がバネになる典型だった。畏敬の念が絶えない。アントニオの行く道なのだろうか。。。
だが、やがて林間に真夏の日差しが感じられるようになると、金曜日までの勤務疲労は汗と共に噴き放たれ、光合成エンジンが徐々に唸りを上げていく。青い空を遣せ。否、スピードを上げて近付くぞ。直に塩川小屋からのルートと合流し、三伏峠に到着。三伏峠小屋の売店メニュー黄金清水を探すことは出来なかったが無念を覚えている余裕はない。帰路には欲しいが今はムギチャーゼの力を借りる必要はなかろう。三伏峠は日本最高の峠と言う。飛騨乗越の扱いはどうなっているのか。「峠」と名の付くもののうちの最高地点と言う事なのか。峠碑を邪魔者なしに記念撮影したかったのだが、碑の前でへたり込む女子学生は動く素振りすらしない。此処でへたり込んでそなたは何処を目指すのか。日帰り塩見は矢張り超人技なのか。

峠直前からトリカブトも顔を見せていたが、峠を過ぎるとマツムシソウ、ウメバチソウも断続的に沿道で応援してくれていた。空は青い。光エネルギー、フィットンチッド、とっても青い空エネルギー等各種取り揃えて吸収し、本谷山スクリュードライバーを繰り出せば、瞬く間に山頂に到着だ。仙丈ヶ岳、空木岳、蝙蝠岳に是から目指す主峰等が目に焼きつく。 主峰には時折雲が掛かるが、概して晴れ間が広角度で覆っており、今日は絶対に勝利することを宣言して止まなかった。

山頂に行っちゃうぞバカヤローエネルギーはまた沸き上がり、塩見新道を合わせて塩見小屋に到着した。スペースも狭く、予約制なのは致し方ないか。この地まで無計画に訪れる者は門前払いとなるのだが、その様な自殺行為に等しい者の存在は皆無なのだろうか。生は当然希望すべくも無かったが、缶モノは一部保冷してあったのが幸いだ。取り急ぎ大豆ペプチドを配合した。往路はこの程度でよかろう。
大豆ペプチドではエネルギー補給には値しなかったのか、睡眠不足で眠気を催したか、はたまた高山病に襲われていたか。小屋から山頂までがとても長く感じられた。甲斐駒山頂近辺のように山道が蟻地獄状でないのが救われたが、3歩進んで2歩分悩む小休止を繰り返すしかなかった。


頂上寸前の牛歩があったものの、コースタイム8時間以上の道程を6時間以内に収め、到頂と相成った。勝った。仙丈、甲斐駒、北、アサヨ、間ノ、赤石、悪沢、北荒川、広河内、笊など、四方の名峰は我が手中にあった。2年振りの3000m峰である。高山病は免れているのだろうか。三角点のある西峰より目と鼻の先の、東峰に移動する。マニアでなくとも寄るべきだろうが、数人が後から追って到着した。最近多いのが、自分のデジカメを提示して写真を撮ってくれとだけ言う人である。自分を撮って貰ったら同じことを相手にしてやろうと言う気持ちは沸き出でないものか。今日も西峰より5m高い聖域東峰を汚された思いで甚だ心外である。



山頂浴を堪能後、西峰から下りながら眺める名峰の雄姿に酔いしれながら、また塩見小屋に到着。往路の大豆ペプチドは我が胃に足りなかったのだろう、帰路はしっかりムギチャーゼを配合し、是からの断続する下り道に備えた積りだった。飲んだ直後は其の体への作用は歴然としていた。
小屋から下り始めてどれくらい経過しただろうか、後方でヘリコプターの爆音が響く。怪我人が出たのか、はたまた近隣パトロールのためだけか。そろそろ庵足にも疲労が蓄積し、帰路をヘリに頼れたらどんなに楽かと羨みながら耳への劈きを聞き流す。以後、三伏峠までのアップダウンにもがき苦しみを繰り返した。グリコーゲンが枯渇して特に登りが苦しい。水分もPETボトル900ml*2に加えて途中で大豆ペプチドとムギチャーゼ各1缶ずつをプラスしただけでは、この真夏の日帰り強行軍には脱水症状に陥りそうである。三伏峠からは一応下り一辺倒となってはいるが、終に膝が笑い出した。コースタイム約15時間の道程は確実に肉体を蝕んでいた。もう惰性しかない。惰性の中、未だ未だ擦れ違うハイカーの群れ、群れ、群れ。一体彼等は何時に山小屋に着こうと思っているのか。14時を過ぎても未だ未だ登ってくる輩も居る。山の天候を知っているのか。貴兄はそんなに偉いのか。山小屋は予約しているのか。山の神の逆鱗に触れることが如何なることか、君達は未だ知らないのだろう。マナーのなっていない年配者、マナーは出来ているが山の時刻感覚が全くない若者、日本のハイキングの行く末は如何に。将来山小屋の主なり山に携わる積もりであるならば、客とは言えマナーやルールを知らない者に目を瞑ってばかりも居られまい。やれやれ。
何とか登山口に戻るも、下山届用紙がないので特に何も記さずに林道を下る。林道のアスファルトからの膝への衝撃に加え、真夏の半端でない日中の放射熱に駐車場が遠退く気分である。15時間分の道程が間もなく終わろうとしている、本当にしているのか???、、、
林道にはバッタが飛び交っていた。一ジャンプで場合によっては落差数十メートルも下に降下するのは怖くないのだろうか。縮尺を人間に拡大すれば超ロングダイブで、ブラックホールに吸い込まれる心境に陥ることだろう。多分彼等も温感程度は保持しているだろうから、着地地点が灼熱地獄か否かは判別がつくだろうが、身軽さ故に着地時のダメージは殆ど有り得ないのか。林道の直脇は林立するとは言え落差は計り知れず、バッタのダイブの度にハラハラとさせられた。着地地点の不安定さに恐れ戦くことが容易に想像できてしまうアントニオは、バッタに生まれなくて良かったとつくづく思った。
何処ぞのHPに、16時26分に駐車場に戻ったと記載されていたことを思い出す。うむ、其れだけには負けてはいけないかと最後の力を振り絞って15時53分、駐車場に舞い戻って来た。休憩込みで11時間13分の長い旅は終わった。分厚い山用靴下を脱いだ時の爽快感。夏の日は未だ少々翳り始めたばかりであった。駐車場には山岳には向きそうも無い体型の者が幾人か、キャンプの準備でもしているのだろうか。是から登ろうとする程の無謀さもなければ、山から降りて来た躍動感も感じられない。マニヤの集う鳥倉林道と言うことなのだろう。
帰路の林道下りも面倒ではあったが、R152も分杭峠を挟んで1.5車線からガードレールに挟まれて全く逃げ場の無いぎりぎり1車線幅となる区間も長く、対向車の存在を否定したジモティが車速を緩めることを知らず、幾度も冷や汗を掻かされ、不快感が募った。長谷村に入っても国道は1.5車線幅が続き、もう自宅に帰りたい心境だった。戸台口のバス停が見えた頃から2ヶ月前も通った我が道に戻れ、安堵の念に胸を撫で下ろすことが出来た。夕刻となって道の駅の営業時間が気になったが、客足が閑散としながらも未だ少なからず温かみの残る美味しい焼き立てパンを購入できて本望であった。
今日は都合により温泉を後回しにした訳がある。18時以降の入場でさくらの湯は30%引きになるからだ。土曜の夜、浴室内はジモティで賑わっていた。隣の若い衆は洗い場で洗濯をしていた。銀髪の幼児が露天で泳ぐ。良く見ると日本人である。黒髪の方が健康的に見えると思うのだが、其の銀髪は果たして本人の意思によるものなのか気懸かりであった。食堂ではローメンを生まれて初めて口にした。日本蕎麦より重く、ソースカツ定より軽い物を目指していたが、カロリーでは予想に反してカツに勝ち越してしまいそうだった。
車に戻る頃には日もどっぷり暮れ、タダでさえ少ないR152の交通量もめっきり減ったが、油断すればコーナーの陰に長野県警が潜んでいるとも判らず、スピードは控え目に進んだ。杖突峠辺りで走り屋に追われてハッスルしてしまったが、甲州街道に合流して落ち着きを取り戻すことが出来た。土曜夜の甲州街道は下り線こそ適当な交通量が観測されたが、上り線に至っては返って何時止まるべきか気の遠くなる程順調に流れていた。諏訪南で高速に乗ろうかと予定はしていたのだが、思わず順調な甲州街道に身を委ね、ドンブラコ、ドンブラコと東へ下り続けた。経済速度運転と呼ぶべきなのか、燃料メーターの針の減りがまったく判らない。下道であれば適度に窓を開ければクーラーも不要だ。東北行脚時にリッター当たり16km程度も走れたのも偏にクーラー未使用が大きな勝因だったかと思う。是だけ快適な甲州街道を全く侮ることが出来ない。甲府に近付くに連れ交通量と信号の数は少々増えたが、2車線道路になって左程不都合は感じなかった。再び1車線に戻る勝沼の先で、道路工事中片側対面通行との表示があり、満を持して高速に乗った。21時を過ぎると小仏トンネル渋滞もなく、とても快適な陸の旅である。R16も鵜森手前の工事箇所がネックだった程度でとてもとても順調に家路に着いた。渋滞を避け、心労を減らす。0時に家を出て23時頃に戻る、正銘の日帰りツアーであった。山歩きのダメージは大きいが、運転による疲労が少ないのがラッキーであった。
(完)

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★

付録:
山旅アドバイス
・鳥倉林道はゲートまで全面舗装。
・塩見小屋は要予約。あまり大きくはない。
・さくらの湯は18時以降350円。
・R152は大鹿村、分杭峠、長谷村に掛けて、1~1.5車線幅が続く上、
対向車の存在を無視したジモティが飛ばすのでスピードは控えめに。