東北7大夏山祭り 森吉山、八幡平、姫神山

不定期連載 山道をゆく 第178話
2005年夏特別企画 第1弾 東北7大夏山祭り
05/07/09~07/18
八甲田山(未遂)、
赤倉山(庵選千名山344)、岩木山(日本百名山、庵選千名山345)、
白神岳(日本二百名山、庵選千名山346)、
森吉山(日本二百名山、庵選千名山347)、
八幡平(日本百名山、庵選千名山348)、源太森(庵選千名山349)、
茶臼岳(庵選千名山350)、
姫神山(日本二百名山、庵選千名山351)、
岩手山(日本百名山、庵選千名山352)
【東北7大夏山祭り 7/14,15】

7/9(土)
庵庵−東北道−

7/10(日)
−十和田IC−湯夢湯夢の湯−奥入瀬渓流館
−酸ヶ湯−鹿鳴庵−民宿又兵衛

7/11(月)
民宿又兵衛−黒石市内−ブナの里白神館−あすなろ荘

7/12(火)
あすなろ荘−赤倉神社…赤倉山…岩木山…赤倉神社−鯵ヶ沢
−R101−道の駅ふかうら−黄金崎不老ふ死温泉−白神山荘

7/13(水)
白神山荘−白神岳登山口駐車場…白神岳登山口…白神岳…駐車場
−ハタハタ館−県64号−杣温泉旅館

7/14(木)
杣温泉旅館−ヒバクラ登山口…ヒバクラ分岐…山人平…森吉山…山人平
…ヒバクラ登山口−県309号−大葛(おおくぜ)温泉−県22号−県191号
−R341−八幡平山麓荘

7/15(金)
八幡平山麓荘−R341−八幡平アスピーテライン−見返峠駐車場
…鏡沼・めがね沼…八幡平…陵雲荘…八幡沼…源太森…黒谷地湿原
…茶臼山荘…茶臼岳…黒谷地湿原…黒谷地入口…アスピーテライン
…駐車場−県23号−大更−県199号−好摩−盛岡西部広域農道
−一本杉園地第2駐車場…一本杉コース…姫神山…こわ坂コース
…駐車場−R4−県278号−相ノ沢牧場−県219号−小岩井乳業
−雫石広域農道−民宿しらかば(貸切)

7/16(土)
民宿しらかば−御神坂駐車場…鬼ヶ城…(左回り)…岩手山(薬師岳)
…鬼ヶ城…駐車場−玄武洞方面−玄武風柳亭

7/17(日)
玄武風柳亭−小岩井農場駐車場…農場内散策…駐車場−県219号
−R46−県16号−県13号−ぎんがの湯−県286号−嘉司屋
−花巻南IC−東北道−長者原SA−国見SA−

7/18(月)
−蓮田SA−S1−C2−首都高5号−C1−首都高3号−用賀IC−環8
−玉川IC−3京−港北IC−庵庵

−:車、…:歩き・走り

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
前回までの粗筋:

蝿との遭遇。
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【7/14(木)】
山小屋ではなく普通の温泉旅館なので、翌激早朝飯の所望は難しかったが、それでも朝食ランナーの先頭を切って食卓を囲んだ。飯が美味いのは素敵だ。食が進む。さすがに米処、東北だ、米が美味いと幸福だ。
さて、宿を辞し、森吉山麓高原を目指す。舗装路なのは有り難いが、曇りがちの天候もかったるいさを助長していた。延々と九十九折が続いた後、林道は砂利道と化してしまい、助けを求めても当然誰も来てはくれなかった。砂利道は1kmくらいの辛抱でやっと駐車場に辿り着く。旅館の朝食後の出発ではさすがに先約者の後塵を拝すしかなかった。アウトドア向けモデルの自家用車数台に加え、何とスーパーカブ号の兵オジサンまで存在した。侮れない、森吉山登山者である。

気晴らしの良いとはとても言い難い天気の中、ヒバを掻き分けながら登る。此処にもギンリョウソウを見つけた。時折覗く、立ヶ森。空は灰色を隠せずに梅雨明けを待ち侘びていた。




ヒバの林相が明け、山道が秋田県の空の真ん中に顔を出そうとした頃から木道が続き、尾瀬の気分を味わうことが出来る。時に、ニッコウキスゲが満開である。そして、従来は距離を置いてしか見たことがなく、まるでトウモロコシの食いカスの様としか感じていなかったコバイケイソウ。その群生の華々しさに今迄の失礼を恥じた。ヒナザクラ、コイワカガミ、キンコウカ、チングルマ、ハクサンチドリ、イワイチョウ、ウラジロヨウラク、タニウツギ、シラネニンジン、ゴゼンタチバナ、、、森吉山は偉大であった。恐るべし、山人平のお花畑よ。是ならば山屋でなくとも頑張って観賞に訪れたい者も多かろう。




山頂は生憎のガスであった。先客も多く、其の中にレンジャーのオジサンも居た。この方も白神山荘の親父さんに匹敵する程、舌好調であった。若かりし頃は丹沢で武者修行をしていたと言う。コバイケイソウも昨年は駄目だったが今年は抜群だ。カモシカも増えてブナの実を求めての徘徊が多く目撃されている。熊も当然出没するよとのことである。自分も将来はこのような業界に身を置くとすれば、斯くの如く足より舌回りの激しい人となってしまうのだろうか。年配を叱るな、行く道だ。そうは思うが、アントニオ的虫の知らせにより、そろそろ下山が必要と感じ、話の腰を少しずつ折りながら辞去を試みた。すると、オジサンも一緒に下山しそうな勢いである。すかさず庵速で、前を歩いていた初老夫婦に追い付き追い越し、レンジャーオジサンの話し相手を無言でバトンタッチさせていただいた。途中、小雪渓が陥没して嵌ったが、想定の範疇だったため大きなダメージはなかった。ガスの中、ずんずん下山を進めると、木段に数個、足跡があった。其れも人間のものではなさそうだ。山道の途中から突如と現れて突如と消えていった。道の脇で息をしながら唸る者?あり。人ではなかろう。人ではないのならば、速やかに此処を立ち去る必要があろう。其の人でない実体を確認する余地もなく、正しく一目散に登山口へと舞い降りて来た。恐らく、あの場で万が一熊に襲われた場合、あの至近に居る最強の霊長類は間違いなくアントニオなので、他に助けを求めようもないであろう。あの唸り声は人間の其れではない。当然ながら其の唸りを録音する余裕もなかった。熊との遭遇を確認するより、無事であることに価値を求めたく、速やかに其の場を去ることにした。



何とか駐車場に到着した。此処まで来れば後は逃げ切れよう。往時に駐車していた車の数は減っていなかった。結局全員抜いてしまったか。着替えているうちに雨がポツリポツリと降り出す。さすがはアントニオ的虫のしらせであった。鍛えれば虫と会話が出来る。スーパーカブオジサンは庵速を凌ぐ兵に見えたが、ヒバクラ岳分岐から森吉山とは反対方向へ進んだらしく、未だ帰って来てはいない。皆さん、雨の中、登山ご苦労様です。やがて雨の降りも纏まってきた。牧場の牛は珍しいものが来たと、オレンジ色の休部号を睨んでいた。今日は是から八幡平への移動である。県道までも面倒だったが、県道も更に陸奥を目指さねばならない。 道路幅は狭まり、湾曲路は重なり、雨も止まず、あまり気の進まないドライブが続く。明日は晴れるのか。天気予報では回復傾向を報じてはいるが。矢張り今日も宿に早く着いて風呂ビールを渇望していたが、多分今日寄らなければ一生寄る可能性がないと、取り急ぎ喉から手が出る程飲みたいビールを後回しにし、大葛と書いてオオクゾと読ませる温泉に寄った。平日、昼間。雨中。温泉はジモティが集っている。この温泉、村内外者問わず、一律100円である。ジモティには欠かせない湯である。100円の大葛の湯よ、永遠なれ。
さて、今宵の宿はHPに掲載されている住所情報からでは正確に地図中の所在地を掴めてはいなかった。合併等で表記変更になったものが適用されていないのだろうか。それでも国道沿いだろうから、あわよくば宿の手前にコンビニでも見つかれば翌日の行動食を、と考えていたのが、あっという間に看板を見つけてしまった。今日も貸切を半ば予想していたが、残念ながら幾人かの先客を擁していた。周辺温泉巡りの湯治客に加え、遠方からの出稼ぎなのか、国道工事従事者の指定宿舎的性格を表していた。何だ、貸切ではないのか、、、でも8畳2間の16畳独占である。勿体無い。今回、是ばかりだ。残念ながら此処でもPHSは不通だった。大分下界に近付いている感覚なのだが、アンテナが極めて少ないのであろうか。恒例の風呂ビールを堪能し、読書に勤しんでいるうちに夕飯の時刻となった。
女将の粋な趣味による自筆なのであろう、和紙に風景画と簡単な言葉が添えられて御膳の上に載せられていた。少し、他以上に歓迎して貰っている気持ちが伝わり心地よい。晩飯もまたご飯が美味い。残念ながら地酒の冷やしたのはないようだが、海と山の幸が今日も食卓に満載状態であった。
食堂には開高 健の記した色紙が幾つか展示されていた。
「明日、世界が滅びようとしても、今日、あなたはりんごの木を植える」
開高 健
りんごが食いたくなった。
【7/15(金)】
i-modeは何とか通じるため、天気予報は確認出来たが、今日は更に抜群な天候を迎えられる予感で朝飯も進んだ。食堂の窓外からはガスの立ち込めが確認されたが、女将は晴れの前兆と断言していた。ちょっと雲が多いだけさ。装飾豊かな箸折をお土産に貰い、お腹一杯で八幡平山麓荘を辞す。7-11的コンビニでお握りを調達し、R341を登る。後程気付いたが、峠より数十メートル下った箇所の駐車スペースは一応無料だったようだが、朝一で管理人が居ないのを尻目に、見返峠駐車場の一等地に休部号を止め、岩手山方面の雲行きを気にしながら八幡平を目指す。




細かい遊歩道を間違えたものの、鏡沼、めがね沼を眺めながら十数分で山頂に立つ。展望台がなければシラビソ樹林に囲まれるのみの山頂である。障害が発生しなければ本日は姫神山も攻めたいため、今回は楽々登山に甘んじさせていただいた。遊歩道も整備されており、周囲は比較的観光地感覚で歩き回ることが可能である。ただ、朝の8時台から周りはじめる者は見当たらなかった。シラビソは続くよ何処までも。八幡沼の照り返しに眩しさを覚えながら、源太森を目指す。八幡平山域中の最高地点を既に通過してしまった以上、何時もと感覚が異なっていた。無限の池塘にワタスゲが群生しているのが幾分気休めにはなったが、源太森と茶臼岳逍遥をプランに加えたことは「付け足し」以上に感じることはなかった。天候が上向いたものの、達成感の低さは否めない。源太森からの眺望も申し分はないものの、徐々に雲が増えつつあるような気配で先行きが心配であった。



源太森から黒谷地湿原へ降りる岩のゴロゴロした箇所で、遂に左ブーツが破壊した。と言っても靴底がベローンと剥がれてしまった程度ではあるが。是を購入したのは5年前のMMC初代大縦走の前のことである。今は亡きアウトドアグッズ店の懸賞旅行中のシアトルはレニア山で履き始め、帰国後翌日からの大縦走については、自宅出発後2分以内に靴紐を踏んづけて切ってしまうと言う不吉な事態を招いたのも夢の跡である。あのシアトルツアーで金を使い過ぎたのが敗因か、其のアウトドアグッズ店の懸賞旅行は其れが最初で最後であり、間も無く閉店に追い遣られてしまっている。不吉だったかもしれないがそんなことは露知らず、数々の名山を渡り歩いたプレミアもののブーツであった。そんなブーツが壊れてしまうとは、衝撃以外の何物でもない。僅かに爪先側は、「本体」部との「接続」を維持しているものの、歩く度にベローンベローンでは先が思い遣られる。東北ツアーもあと1日半。どうするのか。茶臼岳を諦めて引き返すか。引き返すには余りにも歩き辛い地点での出来事だったため、戻るのも億劫であった。感傷に浸りながら暫くベローンベローン状態を余儀なくされたが、暫くして簡易救急袋を探したら、ナンだ、持っていたではないか、テーピングを取り出しては踵側を其れでぐるぐる巻きにした。この応急処置で少し気分的にも持ち直し、折角なので茶臼岳でもクリアしておこうと前進を決めた。
黒谷地湿原は期待した程の百花絢爛振りには程遠かった。昨日の山人平や源太森手前の湿原等に比べたら、寂しささえ覚える。湿原を越えると八幡平らしくない普通の山道になった。徐々に雲も増え、靴も壊れ、目指す茶臼岳には申し訳ないが、消化試合の感覚が離れなかった。靴破壊の時点で引き返すべきだったか、、、次第にテーピングも緩んで再び歩き辛くなり、またガスも立ち込めつつあり、茶臼岳が遠く感じられるようになった。
何とか山頂に立つも、大分ガスのお世話になってしまっている。呼ばれざる客だったのか。熊沼、夜沼、石ガタ沼が雲間に見え隠れする。午後の姫神山も駄目かな。ブーツも壊れているし。心掛け、道具、天候と3拍子揃ってNoと叫んでいるような気がしてならない。安比の森は沈んでいる。長居は無用か。
帰路は黒谷地湿原から源太森への、このブーツとなってしまっては今や難路としか言えないルートを通過するのはブーツの更なる磨耗の加速化とアントニオエネルギーの浪費を余儀なくされるため、地図を鑑みて左程遠回りにならないであろう車道アスピーテラインを歩くことにした。
黒谷地から茶臼岳往復は八幡平らしからぬ余所行きでない山道であったが、アスピーテラインに至ると拍子抜けする程の観光高原ルートで、また青空を拝めるようになった。ブーツの破損具合が気掛かりで、姫神山を登るエネルギーが果たして残っているか、少々弱気になっていた。見返峠の南に位置する畚岳。雲を被ったり退けたり、間もなく午後の不安定さを感ずる天候具合であった。良し。12時前に見返峠に戻れたら姫神を目指そう。12時を過ぎてしまったら、畚岳でも行きますか!!ゆったりとアスピーテラインを登っているうちに、畚岳頭上の傘雲の動きが鈍くなった。畚岳が拒んでいるのか。仕方が無い、、、
再び庵速を増し、見返峠に到着したのは12時ちょっと前だった。フロントウィンドウにはしっかり帰りに駐車料金払え張り紙がワイパーブレードに挟まっていた。潔く支払いを済ませ、行き先を占う。今も畚岳は拒んでいる。では、当初の予定通り、姫神に行きますか!!!
ブーツ破損で歩速も侭ならず、粗コースタイム通りに八幡平を終えたのが心残りであった。だが、未練を感ずる余裕もなく、八幡平を振り返りもせず、先程歩いて登ったアスピーテラインを急いで下った。八幡平では気が付かぬうちに二の腕数箇所を虫に刺されてしまっていた。途中薬局に寄り、虫刺されの薬とテーピングのごっついのを購入した。是であと2山は逃げ切る積もりだ。やるしかないのだ。姫神山に岩手山。特に岩手山は仮想富士として何としてでもクリアせねばならぬ。大幅に迷うことなく奥州街道に辿り着き、すぐ農道に逸れる。一本杉園地にはさすがに大勢の先客が居た。当然だろうな。もう時刻は13時を回ろうとしているのだから。午後から登山開始で山の神に怒られそうだったが、余りの暑さに吹っ切れたアントニオは、登山届けを記入して一本杉園地を発った。
田中澄江が新・花の百名山に選定したのだからさぞかし花も多かろうと期待勇んで登り始めたのだが、一向に花畑の気配がなく、中々士気を高めることが出来なかった。氏が花を認めたのはこの一本杉コースではなく、城内コースだったようである。とは言え、八幡平で若干エネルギーロスを認めたものの、既にエンジンのウォームアップが十分済んで姫神山に臨んだため、思いの外山頂到着は早かったと思う。

岩手山をはじめ、秋田駒ヶ岳、早池峰、和賀岳、八幡平に八甲田連山など、標高の割には至近に高い山が存在せず、360°を巡る大展望は縦であった。

帰路はやや遠回りだが、傾斜が緩くてブーツや膝に優しかろうこわ坂コースを選択した。傾斜は緩いが泥濘もあって往路より滑り易い気がしたが、今更引き返すのも無駄である。最後の舗装路の下りでは膝への負担を大きく感じ、明日は歩けるものか、大量の不安が過ぎった。
駐車場に戻っても左程車の数が変わっていない。擦れ違ったのは1,2グループ程度だったろうか。他のグループは一体何処へ行ってしまったのか。まぁ、良い。さっさと風呂ビールだ。今日は絶好のビール日和で、何を飲んでも美味く感じることだろう。勇んでハンドルを握るも、滝沢別れ付近の状況が掴めずに途中でUターンを幾度か余儀なくされた。奥州街道を離れ、網針温泉方向を目掛けて雫石の民宿界隈を探った。田畑広がる喉かな町である。町内に10箇所以上も温泉を有する雫石町である。スキー客も減少傾向の昨今、是からが宿経営の正念場であろうか。やがて民宿しらかばに到着。暑い。余りの暑さにクーラーを動かしてしまったアントニオである。間違いなく梅雨は明けている。この暑さ、厳しい。横浜の自宅にクーラーを置いていないアントニオが、岩手県は雫石町でクーラーの御世話になる必要があった。其れ程暑かったのである。民宿は、部屋数も多ければ洗面所も広く、学生グループのスキー合宿を想定した造りであるが、冬にはたくさんお客さんが来ると良いですね。今日はまた貸切なのだけど。
今日の晩飯も田舎飯に相応しい皿皿が並び、また、今日も明日も登山と言うと宿のオバちゃんとも話が弾んだ。生憎冷の地酒は此方にもなかったのだが、一通り食事を終えて壁に幾つかの新聞の切抜きを見るや、この宿が構造特区のこの界隈でどぶろくを作っている3民宿の1つであることが判明した。別の壁を見れば、どぶろくの料金も書かれていた。オバちゃんに、未だ品切れしてないか訊くと、やり初めで美味しく出来ているか、遠慮がちに一杯飲ませてくれた。濁り酒の色合いの中、王録丈径のような煌く味わいが口の中に広がり、至福に埋没した。正直、是なら「銭が取れる」と感じたのだが、オバちゃんは遠慮がちにサービスするわと言って勘定に加えなかった。民宿しらかば、温かい。我が選択眼に一瞬の曇りもなし。

(続く)