不定期連載 陸道をゆく 話数知らず 06/03/19 荒川市民マラソン大会 【2風】 3/19(日) 庵庵…鴨居〜菊名〜渋谷〜新宿〜戸田公園 …板橋スポレクスタンド…総武線の陸橋付近 …板橋スポレクスタンド…戸田公園〜武蔵浦和 …みなとの湯…寿司文−浦和〜赤羽〜渋谷〜菊名 〜鴨居…庵庵 −:車、…:歩き/走り、〜:電車 ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ 一週間前である。 多摩ブルワリー10周年記念で3/10からの3日間、 最初の1杯100円セールとの告示を発見してしまっ ていた。30km走行では1週間後の本番までに疲労 を十分に回復することが出来ないかも知れず、中 山郵便局での配達証明郵便回収、緑図書館への図 書返却を兼ねて十日市場まで走り、矢部までは電 車のお世話になって再び町田街道と多摩ニュータ ウン通り、野猿街道を軽く流すプランに纏め上げ た。土曜日のランチメニューはハンバーグであっ た。此処2ヶ月の食事調整の末、ハンバーグのよ うな重い洋食は見向きもしなくなっていた。その 晩行き着けの居酒屋で鮪の刺身を躊躇もなく注文 したにも関わらず、10周年記念ランチメニューの 鮪漬け丼をビールの摘みとしていた。前回は、酵 母なしのボックビールを除く多摩ビール全麦酒目 制覇を記録したものの、十数キロ程度の走行には 2杯程度の給水で満足してしまっていた。その翌 日曜には一月振りのネパールダンスである。練習 とは言え、少々動きの激しい演目を自ら希望して しまう。余り遣り過ぎると膝を傷めかねない状況 になったが、何とかダメージを受けずに済ませた。 一月半前頃から、夜中に目覚めてトイレに行く習 慣が続いてしまい、何が原因かと思案をしていた。 丁度本番の3日前に社内の健康相談会があるとの ことで、そのキャンセル待ちに潜り込んで担当医 に相談を持ちかけた。30km程度の走行は平日には 実施できないため、平日はそれに替えて就寝直前 に筋トレを行っていた。医者はその就寝直前の激 しい運動が原因ではないかと疑った。実際、その 晩から運動を控えると、夜起きの症状が緩和され た。その運動による代謝のため、就寝後2,3時間 で老廃物が溜まってしまっていた模様である。個 人的には様々な他の原因を模索していたのだが、 医者の言には一日の長があった。目から鱗であっ た。 今年初めから週2日休肝日を設け、夜食では極力 炭水化物摂取を控えて来た。但し、液状のものを 除いて。1月前から禁宴週間としてコース料理が 予想される宴席とは御無沙汰が続いた。昨年末か ら5kg程度減量できたであろうか。直前に炭水化 物を過剰に摂取した積もりだが、果たして本番に 奏功するであろうか。 次週の投票日にはダンスグループの新歓ハイキン グがあるため、土曜日の早い時間帯に区役所へ赴 く。ジャージ姿でジョギングをしながら期日前投 票所に赴けば、本日最初の投票者とのことで、投 票箱の南京錠開錠という珍しい場面にも出くわす ことが出来た。予選1位通過である。幸先の良い スタートが切れた。 週の半ば頃から日中、風の強い日が続き、是が日 曜にも吹き荒れると思うとぞっとした。今年まで、 当日のコンディションは自らの意思下にのみ存在 していた。今年まで、運が良かったと言うことか。 出走当日は大抵天候には恵まれていたのである。 昨年出走日の浮間舟渡駅改札の芋洗いや受付の人 間渋滞を嫌い、満を持して前日受付に向かう。地 図を確認すれば、荒川は埼玉側の戸田公園駅から 歩いても歩行時間に大差はないと見られた。強風 煽る戸田橋の上を、土曜の昼間に歩く者は果たし て、挙って見慣れた荒川マラソンビニール巾着を 手に提げている。前日受付を済ませたランナーば かりである。既に戦いは始まっているのだ。 前日受付ではゼッケン引換券と共に宣誓書も回収 された。宣誓書内には、睡眠は十分だったか、走 る気力があるか等、当日のコンディションをはい、 いいえで宣言すべき内容が網羅されていた。この 宣言文面を何故前日に回収するのかと呆れてしま う。受付氏も決まりだからとしか言えなかった。 今晩は大人しくしてコンディションを落とさない で下さいね、と親切心に言葉を添えて頂いた。 また、当日購入では荷物が嵩張ると思い、クッション の効く靴の中敷に、ジョギング向けに足首部が細 めになっているジャージを購入した。Nikeのブー スには風吹き荒む中、行列が出来ていた。足型計 測器は30分以上の待ちである。知人に借りた文庫 本を読んで時間を潰し、いざアントニオ足型測定 である。左膝裏十字靭帯断裂部門に加え、不揃い な足型部門世界一を目指す口実にと思ったが、アン トニオの足型は予想を覆して左右粗均等で、以前、 八ヶ岳のペンションで指摘されて驚愕させられた 実寸は約27cm、やや甲高で、担当者曰く極めてバ ランスの良いものとのことであった。記録の停滞 を足型の所為には出来ないのだ。いけない。期待 された結果を出せなかった時の口実を彼是と考え 始めている。明日の午前中は雨らしい。雨と風、 選択する権利があるならば、雨を寄越して欲しい。 鴨居駅に戻ると大降りであった。濡れた髪のまま の序でにと、上星川の満天の湯に赴く。一時はジョ ギングで赴こうと目論んではいたが、大人しく車 を転がした。少々迷ったものの何とか上星川駅の 裏側に到着。駐車場も思った程込んではいなかっ たが、スーパー銭湯内には想像以上の人集りであっ た。五右衛門風呂チャレンジは次回持ち越しとなっ たが、うたた寝湯には間一髪で寝転がることが出 来た。周囲では気持ち良いとの声が聞かれるが、 庵的には浴槽からのはみ出し厚のためか、残念な がら蚊帳の外の気分である。緊張は拭えない。こ の風呂で戯れる者の中で、明日一緒に走る者は恐 らく皆無であろう。癒えた気分は数ナノメートル 程の状況の中、風呂屋を辞去した。 前日の夜は蕎麦屋に出向いた。季節の山菜の小鉢 の種類も多く、虎視眈々と襲撃の機を窺っていた 店である。近所の行き着け居酒屋では節操もなく 飲み過ぎてしまいかねないと思えば、蕎麦屋は貸 切状態だった。美味しい酒だった。早めに帰宅し、 明日朝食のためにお握りを4つ程拵える。なすべ きことは出来たのか、果たして。。。 夜が明けた。幸い、雨は上がっている。雨が上がっ たことを幸いと思おう。このまま風が大人しくし ていてくれればと願いながら、横浜線に揺られる。 昨年は埼京線渋谷駅ホーム辺りからジャージマン の散在が観測されたが、今回は東横線で既にその 有様であった。横浜周辺から攻めるジャージマン も多い。でも何故彼等はあからさまにジャージ姿 で電車に乗るのか。マラソン走ることを威張り散 らしてはいないか。 新宿駅埼京線はホームも電車内もジャージ軍団が 幅を利かせ過ぎて一般乗客にとっては甚だ迷惑者 に映ったに相違ない。赤羽などではジャージ外の 人々が申し訳無さそうに満員電車内を縫って降り て行った。 幾人かの手馴れたランナーは板橋からR17を北上 する積もりらしい。また、北赤羽で下車するジャー ジマンも少なからず存在した。アントニオも浮間 舟渡駅の混雑は見送り、1駅向こうの戸田公園で 下車した。ジャージマンは皆無ではなかったが、 あの混雑振りに辟易することもなく、快適感は雲 泥の差である。それでも駅内及び付近のトイレに は行列が観測された。会場までは昨日確認した裏 ルートを利用し、小さな公園で誰も並んでいない トイレを堂々と利用することが出来た。 前日に受付が済んでいるので幾分気楽である。荷 物も少なくて済んだ。カード類、水曜日に山グッ ズショップで購入した膝用テーピング、インドメ タシンをDバッグより取り出し、残りの荷物は預 かり所に置いた。満を持してもう一度トイレに寄っ てからスタート地点に並ぶ。 年々大会規模が増し、その演出にもバブル感は否 めず、今年は亀淵友香率いるゴスペルグループの 生合唱を声援にスポレクスタンド前を発つことに なった。前回はどうせ時計を見ても脚が追いつか ないだろと思って持参を止めたのだが後悔は免れ なかったため、今回は忘れなかった。序盤の芋洗 いは昨年より緩和されたのか。芋洗いタイムが昨 年より短いような気がする。受付も昨日中に実施 したため早めにスタート地点に並べたのも奏功し たと言うことだろうか。1km過ぎてキロ5分台前半 で何とか進んでいる。雨上がり直後で風も思った 程吹いていない。絶好のコンディションと言えよ う。身が軽いような気がする。前回のフラット走 法は忘れ、思うが侭、膝が続くが侭、走った。身 が軽いぞ。5kmを越え、キロ5分を切り始めている。 ペースが上がっているのか?今回はサポーターな しのため、膝への圧迫もない。10kmを越えても未 だキロ5分を切れている。神風が吹き始めたのだ ろうか。行く末はどちらに転ぶかは判らない。だ が、この身の軽さ、念願の4時間を切るどころか、 罷り間違えば前回の記録を30分近くも更新してし まったり、なんて快感も少し脳裏を過ぎった。こ の快調は何処まで続くのだろうか。願わくば、神 風の終わりのないことを。 14km程を過ぎて右膝に何処となく疲労を感じ始め た。今回の秘密兵器、「ひざかんたん」の出番だ。 テーピングのような手軽さでサポーター代わりに 膝を守ることが出来るのだ。次の給水所で小休止 し、早速装着だ。きつ過ぎないように右膝をテー プで固定した。思い起こせば、もう少しきつく締 めても良かったのだろうか。16km過ぎで左膝に装 着し、是で今回は膝の笑いからは解放される、筈 だった。 20kmを過ぎてもキロ5分を切るペースが衰えない。 神の声が聞こえてきたような気がした。俺は風に なりつつあった。少なくとも、25km地点付近まで は。 風が、吹いた。 悪夢の風が。昨日、戸田橋で恐れ慄かされた風が、 遂に今日もやって来てしまった。北風である。そ して、ゴールは北にある。ニュースや新聞紙上を 賑わせたように、昨今の突風観測史上最大級の風 速の中、北を目指さねばならなかった。膝の調子 も下降線を辿って行く。風も容赦ない。そんな中、 アントニオが失速すると、敵の爪先部が我が靴裏 に当たった。振り返った。なぬ、貴様は俺を風除 けに使いやがったな。アントニオは風除けマシーン としてはデラックスプレミアムバージョンと言え るだろう。そんな俺をただで風除けに使うとは。 次回から1回100万だぞ。マラソン時でなければアッ クスボンバーが火を噴いていたことであろう。 昨年のフラット走法を無視して前半は好調に飛ば していたが、30kmを過ぎた辺りからはひざかんたん の効力も激減した。嗚呼、今年も矢張り朽ち果て る運命なのか。32km付近で膝は破壊した。救護所 に駆け込み、テーピングの類を所望するも、係員 からはないとの返事である。筋肉痛鎮痛剤のチュー ブを持参しているので時折脚に塗りたくってはい たのだが、この膝の破壊はテーピングで縛り上げ る必要があった。係員はアントニオに棄権を勧め た。無理をするな。未だ10kmもあるのだ。だが、 25kmまでの貯金を徐々に食い続けているが記録と しては未だ未だ捨てたものではない。棄権すれば 記録なし。それは恥辱以外の何物でもない。確か に動機不純な今回の練習風景ではあったが、記録 無しはその練習の努力を木っ端微塵に打ち砕くこ とを意味する。貯金は未だある。例え食い潰した としても、記録なしの汚名だけは避けなければな らない。アントニオの使命である。歩行嫌悪者に とって遥か彼方と言うべき残り10kmではあった。 未だ先に救護所はあるかと問えば、あるとの回答 だった。ならば次まで頑張ってみるか。半ば今年 のマラソンの終焉を感じ涙が込み上げつつある中、 壊れた膝を携えて、救護所を発った。 膝の負担を減らそうとフラット走法に切り替えた が、体全体の疲労から大澱筋のスタミナも最早乏 しく、また重心を通常通りに戻しながら滝を登る 鯉の心境で北を目指して進んだ。少しはゴールに 近付いているのだ。諦めてしまっては昨年末から 準備し続けてきたアントニオ自分自身に申し訳が 立たぬ。人のために走るなどとの余裕は皆無だ。 今年、年男だ。記録なし、それは許されない。右 膝だけでもサポーターを持って走るべきだったか、、、 右膝を一切使わず左膝だけで軽くスパートしてみ たが長続きもしない。嗚呼、貯金が瞬く間に崩れ て行く・・・ 後、1kmは残っていなかった。 貯金を、食い潰した。 壊れた膝を引き摺りながら、最後の救護所を心を 鬼にして無視し、只管走った。今年も4時間、切 れなかった。然し、諦めてはいけない。諦めない ことだけが残された道だ。 ゴールはした。今年は祝杯ビールを掴みに行く気 力も残っていなかった。赤外線チップを外し、そ そくさと着替えて会場を後にした。 今年もダメだった。悲壮感に暮れるには、戸田橋 の上で更なる強風に煽られるのがお誂えだ。戸田 公園の駅に戻るも電車は時刻通りに到着しない。 高架区間の多い埼京線も風に煽られているのだろ う。元々電車賃を高々10円ケチるため武蔵浦和か らスーパー銭湯へ歩く積もりだったのだが、強風 で武蔵野線は止まっている。埼京線も徐行運転だ。 自然は甘くない。地上であの豪風なのだから、山 岳地帯は死の世界になることは想像に難くはなかっ たであろう。浦和市内は今も尚突風が吹き荒む。 いいさ、存分吹き荒れろ。俺の旅はもう終わった のさ。気の済むまで、吹け。もう終わってしまっ たのだ。 銭湯では入浴後、マッサージを受けた。足回りは ボロボロである。何故か此処まで耐えてもビール 指数が上がらなかった。とても寒い、北風が吹き 荒んでいる。結局、スーパー銭湯でも何も口にせ ず、マラソン給食所で貰ったブドウ糖を口にして から約5時間、その割には余り空腹感のないまま、 寿司文の暖簾を潜った。今年も食事を2ヶ月前か ら調整し続け6kg程減量した。マラソン申し込み をしてから昨年より2回多い23回練習で走った。 仕事も何時も以上にこなした。一応結果は出たで はないか。今日は存分寿司を食って存分酒を飲も う。ホッキ貝の炙りは期待通りで、季節の物がど れも美味であった。 来年、5分の壁を叩き割るのにまた地雷を抱える 必要がある、そんな心配は余所に、一人酔ってい た。 ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ 後日、正式タイムをネットで確認した。一昨年前 の記録は4時間9分23秒、10566人中4509位であっ た。昨年は、4時間40秒、10755人中3673位である。 そして今年分は、 4時間5分14秒 11723人中2967位 である。昨年のアントニオワールドレコードには 及ばなかったものの、約1000人の総人口増に対し て700位も順位を上げたのである。皆、あの天候 の中での走行は辛かったのだ。その中で順位を上 げたアントニオは、その底力が発現したと言うこ とか。25kmまでの貯金を辛くも食い潰したが、貯 金は大きかったのだ。今回、地ビールレストラン 巡りには30km程度に抑えた練習が殆どだった。そ の結果だ。当然だ。30kmを越えた厳しい練習を避 けて来たので、残念だが必然な結果だろう。 然しながら、次回、どうするか。どう練習すべき か。30kmを越えての苦しみをどう克服すれば良い のだろうか、、、過酷な練習を積み重ねねばなら ないか。。。順位の更新が続いている。来年も苦 しむことだろう。 (完) ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ 付録: 陸旅アドバイス ・浮間舟渡から会場までと、戸田公園からとでは さほど距離に差はない。